西日本を中心に大きな被害を出した豪雨災害は、9日午後現在、13府県で死者が100人を超え、80人以上が行方不明となっている。気象庁によると、7月8日までに1000ミリ以上の降雨量が観測されたのは高知県の8地点、岐阜県の4地点、徳島県の2地点、長野県の1地点にのぼる。広範囲にわたる豪雨が、被害を拡大させた要因となった。

【図】都が想定する高潮浸水想定図はこちら

 今回の被害は、頻発する自然災害に対応しきれない日本の現実を明らかにした。それは、被害を受けなかった地域の防災担当者も震撼させている。なかでも警戒されているのが「首都圏の豪雨災害対策」だ。

 地震や火事、水害など、たび重なる災害を乗り越えて東京は世界有数の都市となったが、1949年のキティ台風以来、大きな災害は起きていない。ただ、被害が減ったのは東京のインフラが充実したからではなく、「たまたま自然災害に襲われていないだけ」というのが専門家の一致した見方だ。

 では、今回と同規模の豪雨が将来、東京を襲ったらどうなるのか。「首都水没」(文春新書)の著者で、リバーフロント研究所・技術参与の土屋信行氏はこう話す。

「今年6月に土木学会が発表した資料によると、東京で洪水や高潮が発生した場合、建築物などの資産被害の総額は64兆円にのぼると推定されています。被害は室戸台風(1934年)の上陸と同規模のものを想定していますが、雨量は今回の豪雨災害の方が多い。墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区ほか都内の海抜ゼロメートル地帯はすべて水没してしまうでしょう」

 人的被害も大きい。中央防災会議の試算では、利根川や荒川などの堤防が決壊し、東京湾で大規模な高潮が発生した場合、最大約7600人の被害者が出ると想定されている。

 近年、特に警戒されているのが、戦後に急拡大した地下鉄や駅地下の地下街だ。災害時が昼間に起きると、地下鉄はストップし首都圏は大パニックになることが予想されている。それだけではない。地下鉄の構造そのものにも弱さがある。

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大規模水害はいつかやって来る