ケガさえなければ…不慮の事故でキャリアが変わった悲運の選手たち【西尾典文】 (2/2) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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ケガさえなければ…不慮の事故でキャリアが変わった悲運の選手たち【西尾典文】

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巨人戦で力投する中日時代の中里=2001年撮影 (c)朝日新聞社

巨人戦で力投する中日時代の中里=2001年撮影 (c)朝日新聞社

伊藤よりもさらに短い一瞬の輝きを放った投手がいる。それが中里篤史(中日→巨人)だ。プロでの通算成績は実働6年間で34試合に登板し、2勝2敗、防御率4.65。この数字だけ見れば、とても活躍した選手とは思えない。

 しかし、そのピッチングは見た者を興奮させるものだった。中里の出身校は強豪の春日部共栄(埼玉)だが、甲子園の出場歴はない。3年夏の埼玉大会では、当時夏の甲子園で最多タイ記録を出した浦和学院の坂元弥太郎(ヤクルト→日本ハム→横浜→西武)と決勝で投げ合い、延長の末に敗れている。

 2年秋には5回参考記録ながら全15のアウトを三振で奪う完全試合を達成するなどその実力は本物で、2000年のドラフト1位で中日に入団した。1年目から二軍のローテーションに定着し、リーグ3位タイとなる7勝をマークしてフレッシュオールスターでも好投。シーズン終盤には一軍で2試合に先発し、順調にプロ生活をスタートさせた。

 だが、そんな中里を悲劇が襲う。2年目のキャンプで宿舎の階段から転倒しそうになり、とっさに手すりを掴んだ際に利き腕の右肩を故障してしまったのだ。その後2年間はリハビリで登板なし。2005年にリリーフでプロ初勝利をマークしたものの、その後も故障が続いて9年目の09年に中日を戦力外となり退団。翌年からは巨人に移籍したものの、2年間で一軍登板は2試合に終わり、2011年に引退となった。

 そんな中里の一瞬の光は、デビュー戦と復帰した後の2006年の日本ハムとの日本シリーズだった。150キロ前後の浮き上がるようなストレートは今でも語り継がれている。ロッテのエースである石川歩も入団時に理想のストレートは中里だと語っていることも象徴的だ。もし不運な怪我がなければと、今でも思うファンは少なくない。

 中里と同様にプレー以外の怪我で悲運に見舞われた選手は他にもいる。中谷仁(阪神→楽天→巨人)もそのひとりだ。智弁和歌山の3年時には主将として夏の甲子園で優勝。超高校級の強肩と強打が評価され、1997年のドラフト1位で阪神に入団する。1年目から二軍で経験を積み、将来の正捕手として期待されていたが、そんな矢先の2年目に事故が起きる。他人が投げた携帯電話が左目を直撃して失明寸前という重傷を負ってしまうのだ。その後のリハビリにより捕手としてプレーするのに支障がないほどに回復したものの、その間にトレードで加入した選手や若手の台頭もあり、阪神に在籍した8年間で一軍でプレーしたのは2002年の17試合だけだった。

 その後、中谷は2005年オフに金銭トレードで楽天に移籍し、2011年オフに戦力外となった後は合同トライアウトを経て巨人に入団するも2012年を最後に引退。15年間のプロ生活でヒットはわずか28安打に終わったが、楽天時代の2009年にはキャリアハイの55試合に出場して4割近い盗塁阻止率を記録するなど、その強肩には定評があった。若い頃の事故がなければ、阪神の正捕手となっていた可能性もあっただろう。現在は母校の智弁和歌山にコーチとして復帰し、恩師である高嶋仁監督を支えている。

 ここまで紹介した選手はプロ野球でプレーした選手だが、最後に不運な出来事でプロ入りに至らなかった選手も紹介したい。白鴎大で外野手としてプレーした渡辺孝治だ。入学直後からレギュラーとなると、1年秋に盗塁王、2年秋に首位打者を獲得。抜群の脚力を生かしたプレーが持ち味で、プロからも注目を集める存在だったが、2年時の冬に自動車同士の交通事故により16本の歯を折るなどの重傷を負い、その後遺症に苦しむことになってしまったのだ。渡辺はその後、社会人野球の富士重工でプレーして都市対抗野球にも出場したものの、大学2年時の輝きを取り戻すことはできず、2008年のシーズンを最後に現役を退いている。

 どの選手も素晴らしい才能を持ちながら故障や不慮の事故によって、その才能を100パーセント開花させることなく野球人生を終えてしまった選手たちである。しかし、彼らが一瞬でも放った輝きは年月を経ても色あせることはない。

 そして、長く第一線で活躍するためには、運の要素も非常に大きいということを改めて感じずにはいられない。大きな才能が不運な出来事によって散ってしまうケースが一件でも少なくなることを祈りたい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。


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