この2カ国に加えて、筆者が推したいのはB組のモロッコとD組のアイスランド。モロッコはスペインとポルトガルという優勝候補の2カ国と同居し、残る1カ国もアジア最強のイランというかなり難しいグループだが、メフディ・ベナティア(ユベントス/イタリア)を中心にアフリカ予選6試合無失点という無類の堅守は欧州の猛者を苦しめるだけのレベルにある。

 攻撃は、カリム・エル・アフマディ(フェイエノールト/オランダ)、ムバラク・ブスファ(アル・ジャジーラ/UAE)、ユネス・ベランダ(ガラタサライ/トルコ)が形成する“魅惑のトライアングル”によるパスワーク、気鋭の若手サイドバックであるアクラフ・ハキミ(レアル・マドリード/スペイン)のオーバーラップ、オランダの名門アヤックスで評価が急上昇中のハキム・ジイェクによる左足の妙技、20歳のアミーヌ・アリ(シャルケ)のドリブルと、エンタメ性に溢れる。特にジイェクの直接FKはイメージとキックが一致したら、いかなるGKにも止めるのは困難だ。

 初出場のアイスランドは、人口33.5万人で東京都の中野区と同じくらいだが、小国であるメリットを最大限に生かしている。指導者の育成を奨励して、多くの子どもにトップレベルの指導を行き渡らせるという逆転の発想で、代表のチーム力を高めてきた。その成果が出たのが2年前の欧州選手権で、攻守一体のサッカーで躍進。ラウンド16で近隣の大国であるイングランドを破る快挙を成し遂げた。“バイキング・クラップ”と呼ばれる両手を頭上で叩く伝統的な儀式は世界中から注目を浴びており、ロシアでも自国のサポーターだけでなく、一般のファンを巻き込んでスタジアムをホーム同然にしてしまうかもしれない。ケガで一時は出場が危ぶまれた主軸のギルフィ・シグルズソン(エバートン/イングランド)はアイスランドの象徴的な選手であり、正確な技術を備えながら、とにかく終了の笛が鳴るまで走り、戦える選手だ。

 そして、ヘイミル・ハルグリームソン監督が予選突破を決めた後に「言いたいのはペレ、マラドーナ、グンナルソンだ!」と、サッカー史を代表するレジェンドに連ねて名前を出すほど信頼を置く主将のアーロン・グンナルソン(カーディフ/ウェールズ)は攻守の要であり、彼の統率力がチームの一体感をさらに高めている。そのグンナルソンが投じるロングスローなどのセットプレーは彼らの大きな得点源だ。

 D組は優勝候補のアルゼンチンに加えてアフリカの雄ナイジェリア、世界的なMFであるルカ・モドリッチ(レアル・マドリード/スペイン)やイバン・ラキティッチ(バルセロナ/スペイン)を擁するクロアチアと、まったく特徴の異なる個性的な国が揃っており、筆者も一番楽しみにしているグループだ。ひとつ間違えばアルゼンチンすら敗退しかねない“死の組”で、アイスランドが欧州選手権に続く躍進の足がかりをつかむかどうかにも注目したい。(文・河治良幸)

●プロフィール
河治良幸
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書は『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHKスペシャル『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。8月21日に『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)を刊行予定。