在宅医療は、目先の病気を治療するだけではありません。これらの生活習慣を改めることにより、生きることに前向きになれるような精神面での健康も取り戻していきます。さらには、患者に身近なところで目標をもってもらい、在宅医らとともにそれを実現していくことで達成感を得られるようにして、最終的には患者のQOL(生活の質)を高めることをめざしています。QOLを高めるために、痛みを中心に「自覚症状を取りきる」ことも重視されています。

 最近では、社会との関わりのなさが心身の不活発につながりかねないことから、高齢者に社会活動への参加を促し、そのための地域づくりにも在宅医が関わっていこうとしています。

■自宅で病院並みの治療が受けられる

 現在の在宅医療は、病院内とほとんど変わらない治療が可能になっています。入院が必要なのは、慢性疾患の治療のほかは救急医療程度、と考えられています。緊急時も、往診などを加え、在宅医療で対応できています。

 ただし、自宅で病院並みの治療を受けられるといっても、心身が通院できる状態にありながら、患者の身勝手で在宅医療を利用することはできません。このほか、排泄のコントロールが不十分な場合は家族の負担が大き過ぎるため、在宅医療には向かないといえます。

 また、ほとんどの治療が可能な分、在宅医療を始める場合は、在宅医側とよく話し合って「どこまで治療してもらうのか」を事前にはっきりさせ、患者の状態に合わせて見直していくことが大切です。

 在宅で可能なすべての治療をしてもらうという選択もあれば、普段はとくに治療せず、命に関わる感染症などだけを治療してもらうという選択もあり得るのです。

 在宅医療ではこのほか、容態が急変したときなど、さまざまなシーンで「選択」が重要になってきます。普段のケアへの「覚悟」はもちろん、こうした選択を迫られることへの「覚悟」も不可欠です。

 そして、患者や家族の選択によって、在宅ならではの「ともによりよく生きる」ための医療が可能になっていることを知っておいてください。

(取材・文/近藤昭彦)

監修/新田國夫医師(全国在宅療養支援診療所連絡会会長、医療法人社団つくし会理事長)