第二に、「日本のための戦争」であれば、当然、米国よりも日本が前に出るべきだと言える。米軍兵士の死傷者が増えれば、米国内で批判が出るから、それを最小限に抑えることが必要だが、そのために、自衛隊をより多く最前線に送ることができれば、トランプ氏にとっては非常にありがたいというわけだ。

 第三に、「日本のための戦争」だから、米軍の戦費を全部または大部分日本が負担すべきだと要求する口実になる。

 第四に、「日本のための戦争」なのだから、北朝鮮の難民を日本が受け入れるべきだということができる。これによって、中国が心配している難民問題を少し緩和できるし、中国に恩を着せることができる。

 第五に、「日本のための戦争」なのだから、戦後の北朝鮮復興にかかる費用の大部分を日本が負担すべきだと要求できる。

 第六に、「日本のために米国人が血を流す」のだから、通商分野では日本が譲歩すべきであるという要求をしやすくなる。アメリカ車やアメリカの農産品をもっと買えという要求も出せる。

 これだけおいしい話だから、トランプ氏としては、ぜひとも、この戦争は日本のための戦争だということにしたいはずだ。

 この話も、先のティラーソン発言と平仄(ひょうそく)が合っている。

 もちろん、いますぐに米朝戦争が起きる可能性は非常に低いというのが、有力な見方ではある。密約説がもっともらしいといっても、だから、戦争が始まるに違いないというほどの説得力があるわけでもない。

 しかし、トランプ大統領が何を考えているのかを考えることは、日本の国民にとって非常に大事なことだ。なぜなら、日本のリーダーは、トランプ大統領に追随することしか考えない安倍総理だからだ。

 私たち国民が、冷静に事態を評価しなければ、安倍総理の暴走を止めるどころか、「トランプさん、日本のためにありがとう」などと叫びながら、米国国旗を振って、米軍基地から米軍の出陣を見送るなどということになりかねないのである。

 米中密約説は、そんな日本国民に対するタイムリーな警鐘なのではないだろうか。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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