その象徴ともいえるひとりが、2010年に育成ドラフト6位で指名された捕手の甲斐拓也だ。

 大分・楊志館高時代から、その鉄砲肩では名を馳せていた。投球が捕手のミットに収まった瞬間から、二塁ベース上の内野手のグラブに収まるまで2秒を切れば強肩といわれ、二盗を阻止する、あるいは盗塁をさせない抑止力にもなるというのが定説だが、甲斐の二塁送球は高校時代から1秒8という驚異的な数字をマークしていた。

 ただ、身長が170センチしかない。いや、おそらく数センチだが、さばを読んでいるのでは……、と思わせるほどの小柄な選手だ。つまり、各球団の指名リストからは早々に外れるタイプなのだが、ソフトバンクは甲斐の強肩を評価、育成枠での獲得に踏み切った。この“小さな逸材”は、入団4年目の2014年に支配下選手となり、今季は1軍で99試合(9月29日現在)に出場。7年目にして、育成枠から1軍のレギュラー格へと駆け上がった。

 今年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、ベストナインにあたるオールスターチームに、投手として選出された千賀滉大も、甲斐と同じ2010年育成ドラフトの4位入団だ。

 愛知・蒲郡高では、3年夏の県大会も3回戦敗退。球速も130キロ台と、プロの注目が集まるような存在ではなかった。しかし、そのしなやかな右ひじの使い方や、体の軸がぶれないスケールの大きい投球ぶりに、地元の運動具店の店主が、懇意のソフトバンクのスカウトに「一度、見に来たら?」と声を掛けたのが獲得のきっかけになったという逸話は、いまや千賀のサクセスストーリーを語る際に欠かせないエピソードのひとつだ。

 そのとき千賀をチェックした永山勝・現アマスカウトチーフは「大学に行ったとして、4年後なら、12球団で取り合いになってしまう。それくらいの素材だと思いました」と振り返る。

 育成4位はすなわち、他球団なら完全にリスト外。ところが、早くも2年目の2012年に支配下選手に昇格、翌13年にはリリーバーとして51試合に登板。「お化けフォーク」と称される落差の大きなフォークボールで、先発に回ってからの昨季は12勝、今季も9月29日現在で13勝をマーク。その驚異的な成長ぶりに、千賀の出身地・愛知県を本拠にする中日は、フロント首脳が「なぜ獲らなかった?」「知らなかったのか?」と千賀をめぐって、スカウト部門を厳しく叱責したともいわれている。

 2011年の育成ドラフト2位指名の亀澤恭平も、身長174センチの小柄な内野手で、独立リーグの香川時代からガッツあふれるプレーと堅実な打撃で評価が高かった。育成契約が3年続いた場合、選手はいったん自由契約になる規約が定められている。4年目もソフトバンクと育成で再契約の方向だったが、支配下選手として獲得に乗り出してくれた中日へ移籍すると、2015年には1軍で107試合、今季も93試合(9月29日現在)に出場、完全に1軍戦力として定着した。

 また、ソフトバンクは今季、先発と中継ぎで8勝をマークした石川柊太も、2013年の育成ドラフト1位。入団からの2年間、3軍で計31試合と実戦経験を十分に積んだ上で、昨年7月に支配下登録され、今季のブレイクにつなげた。2013年育成ドラフト3位の内野手・曽根海成も、今年のフレッシュオールスターゲームで、育成出身として初のMVPを獲得した。

次のページ