優勝を決めて、喜ぶソフトバンクの選手たち (c)朝日新聞社
優勝を決めて、喜ぶソフトバンクの選手たち (c)朝日新聞社
ソフトバンク・長谷川宙輝 (c)朝日新聞社
ソフトバンク・長谷川宙輝 (c)朝日新聞社

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンから、バスで5分足らずのところにある、大阪・舞洲サブ球場。200人ほどのファンが詰めかけていたスタンドに、ちょっとしたざわめきが起こった。

【写真】背番号134の凄い奴・長谷川宙輝投手

「速っ? 149キロ?」

「こんな左ピッチャー、いるんや?」

「やっぱ、ソフトバンク、すげえな」──。

 2017年9月19日、ウエスタン・リーグの対オリックス戦。その六回、2番手としてマウンドに立ったのは、背番号「134」を背負った、線の細い、ひょろりとしたサウスポー・長谷川宙輝だった。先頭打者に中前打、続く打者にも四球で無死一、二塁のピンチ。そんな中、スタンドの視線がスコアボードのスピードガン表示に釘付けになっていた。

「このピッチャー、球が速いぞ……」。マイルなら“90”、キロ換算にすれば“145”が『速い』と呼ばれるボーダーラインだ。4番の杉本裕太郎に対し、カウント2-0から141、147、148、145、142。最後も145と力で押しての中飛。続く赤松幸輔には変化球2球で追い込むと、144キロの外角球で見逃しの3球三振。伏見寅威にはカウント2-2から、この日最速の149キロで二ゴロに仕留めた。

「勢い、あるでしょ? たぶん、初めて見た人はびっくりすると思うんですよ」。長谷川をそう評した2軍投手コーチ・佐久本昌広は、さらに驚きの事実を教えてくれた。

「きょう、初めて2軍で投げたんですよ。3軍からは『いいですよ』と聞いていましたし、僕らはある程度、実力は分かっていましたけど。よかったでしょ?」

 3軍で15試合に投げ、順調な成長ぶりの報告を受けていたという2軍監督の水上善雄も「早く投げさせてみたかったんですよ」という。その期待を裏切らないストレートを披露しての2軍デビューに、ドラフト2位ルーキーの18歳・古谷優人、3年目の20歳・笠谷俊介とこの長谷川を挙げ「この左腕3人は来年に向かって、ホントに楽しみ」と声を弾ませた。

 選手名鑑を頼りに、長谷川のデータを探ってみた。

 2016年・育成ドラフト2位。出身の東京・聖徳学園高は甲子園出場経験もなく、長谷川を擁した昨夏も西東京大会で3回戦敗退。2年秋には1試合20奪三振をマークするなど、その潜在能力は高く評価されていたとはいえ、高校時代の平均球速は130キロ後半。当時の体重も72キロ前後という〝線の細さ〟もあってか、投球に力強さが感じられなかったのだろう。

 他球団が事実上、ドラフト指名を見送ったともいえる無名の左腕が、ルーキーイヤーから飛躍的な成長を見せ始めていることに驚きを隠せなかったのは、オリックスの2軍外野守備コーチ・早川大輔だった。

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