バトルが勃発中の松本人志とオリラジ中田敦彦(右) (c)朝日新聞社
バトルが勃発中の松本人志とオリラジ中田敦彦(右) (c)朝日新聞社

 オリエンタルラジオの中田敦彦が、同じ事務所の先輩芸人である松本人志を公然と批判したとしてちょっとした騒動になっている。脳科学者の茂木健一郎が自身のツイッターで「日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン」(茂木健一郎ツイッター、2017年2月25日より)という書き込みをしたのが事の発端だ。

 茂木のこのツイートはさまざまなメディアで取り上げられ、松本人志、太田光をはじめとする多くの芸人が違和感を表明。この一件に関連して『ワイドナショー』(フジテレビ系)にゲストとして招かれた茂木は、松本に対して終始低姿勢で、ひたすら反省する態度を示していた。

 これに関して、中田は「大御所にセンスがないとか価値を決められてしょげ返っている様子こそが茂木さんの意見通りだったのに」(オリエンタルラジオ中田公式ブログ、2017年4月15日より)と茂木を全面的に擁護した。そして、茂木の言う通り、日本のバラエティ番組ではMCの権限が強いため、ほかの出演者たちはMCに対して気を使わざるをえないのだ、と主張した。

 その後、中田は『らじらー! サンデー』(NHKラジオ第1)で、この件で所属事務所から「松本さんに謝れ」と謝罪を迫られていると暴露。そして、自分がそれを拒否し続けているということも明かした。この発言がいくつかのネットニュースでも取り上げられ、さまざまな憶測が飛び交う状況となっている。

 裏の事実関係は分からないが、私は中田のブログ記事を読んだときに、彼がこういうことを書くのは別に不思議なことではない、と思った。なぜなら、中田は以前からそのような主張をしていたからだ。

 例えば、『日経エンタテインメント!』(日経BP社)2016年7月号に掲載されたインタビュー記事の中で、中田は「『PERFECT HUMAN』に代表されるような歌ネタが、近年のお笑い界では正統な芸として評価されていない」という趣旨のことを語った。その理由とは、現在のお笑いの価値観を作っている松本人志が、歌ネタに重きを置いていないからだという。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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中田の発言の背景にある「松本人志の呪縛」とは