人工知能「ワトソン」の画面。2000万件もの文献の中から、患者の遺伝子を解析して病名を特定した(宮野教授提供)
人工知能「ワトソン」の画面。2000万件もの文献の中から、患者の遺伝子を解析して病名を特定した(宮野教授提供)

 現在、医学部を目指すみなさんが働き盛りの医師になっているのが2035年だ。そのころの医療や医師は、今とは全く異なった姿になっているだろう。小論文の課題としても注目されている、人工知能(AI)と医師が協調する、これからの医療のあり方を、週刊朝日ムック「医学部に入る2017」で探った。

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 人工知能が、医療の現場で患者の命を救った――。2016年8月、そんなニュースが話題になった。

 東京大学医科学研究所(医科研)には、診断や治療の難しい珍しい難病の患者が多く訪れる。15年に、ある60代の女性患者が「急性骨髄性白血病」と診断され、同病院に入院した。抗がん剤治療を続けたが、思うように回復しなかった。

 そこで、米IBMが開発した人工知能「ワトソン」を使って、白血病の患者の遺伝子を解析したところ、わずか10分ほどで別の特殊な白血病のタイプであることをはじき出し、他の種類の抗がん剤を提案した。医師達がその結果を検討して治療をしたところ、この女性は数カ月で回復したという。

「人工知能を使って、患者の命を救うといった治療につながったのは、国内では初めのケースではないか」

 と人工知能学会会長で国立情報学研究所の山田誠二教授は言う。これからは医師と人工知能の協働が当たり前になるかもしれない。

 白血病などのがんでは、遺伝子が変異してがんを引き起こすため、遺伝子を調べてがんのタイプを特定し、治療薬を決めることができる。医科研では15年7月にワトソンを導入してから、白血病などの患者の遺伝子情報などを、ワトソンを使って解析してきた。そのうち半数以上では、医師の診断や治療法の精度を高めることの役に立ったという。

 医科研では、これまでも患者の遺伝子を解析して、治療に役立ててきたが、がんの全ゲノムを解析するとひとりの患者で100万カ所もの遺伝子の異常が見つかることが普通であることもわかってきた。

「遺伝子や新しい治療法や治療薬に関する知見が膨大に膨らみ、医師や専門家が人手ですべてを調べあげるのは、すでにお手上げ状態です」

 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長の宮野悟教授は言い、こう続けた。

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