「だから、ワトソンを導入しました」

 人工知能の助けがなければ、患者に合った最新の医療が難しくなってきている、と医師自身が感じているのだ。都内の大学病院に勤務する30代の女性医師も、こう話す。

「人工知能が医療にどう入ってくるのか。私たち医師の役割はどうなっていくのか、興味を持っています」

 医師専用コミュニティサイト「Medpeer」が今年5月に医師を対象に実施したアンケートでは、回答した3701人の医師のうち90%が、「人工知能が診療に参画する時代は来る」とした。このうち最も多かったのが「10~20年以内に来る」と回答した医師で、全体の33%を占めた。10年以内を含めると、全体の69%が20年以内に人工知能が診療に参加すると考えているということだ。

 前出の医師が、「画像診断などは人工知能のほうが優れていそうですね」と言うように、実際、画像診断や検査数値の解析は、人工知能が得意な分野だ。

 例えば、米ベンチャー企業のエンリティック社はX線やCTスキャンなどの検査画像からがんを見つけ出す人工知能システムのサービスを、15年から提供している。

 さらに、医師や看護師のような丁寧なコミュニケーションに役立つ人工知能も登場しつつある。

 医療ベンチャーの情報医療(東京・千代田)が開発を進めるのは、例えば、スマートフォンのアプリを使って、決まった時間に決まった量の服薬を促すシステムだ。現在、花粉症の治療の臨床研究として京都大学などと開発を進めている。

 アレルギーや生活習慣病など、毎日薬を飲む病気では、薬を飲み忘れることも多い。そこで、アプリでアラートを送るが、その際に、スマホの利用状況などの情報をもとに、人工知能が患者の生活リズムや性格を割り出し、それに合ったアラートを送る。

 一方、人工知能が人の職業を代替するのではないか、という議論もある。だが、医療職はその心配はなさそうだ。むしろ、「ワトソンを使っても、どの情報を使い解釈するのかといった、人の医師の知見や判断が欠かせない」と宮野教授は指摘をする。(編集部・長倉克枝)

※週刊朝日ムック『医学部に入る 2017』より