記念すべき第100回全国高校野球選手権記念大会も順調に試合が消化され、今年の栄冠を掴むチームも随分と絞られてきたが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「思わず目が点の珍決勝点編」だ。
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最終回の振り逃げが決勝点となり、悲願の甲子園初勝利を実現したのが、1994年の八頭。
2回戦の鶴岡工戦は5回まで0対3と劣勢だったが、6回に死球を足場に3長短打で同点に追いつき、7回1死一、三塁、中村浩昭の中犠飛で4対3と勝ち越した。
ところが8回、県大会からずっと抑えを務めている右下手投げ・鈴木規夫への継投が裏目に出て、2四球と暴投、犠飛で追いつかれてしまう。
4対4の9回、八頭は敵失と犠打で2死三塁のチャンスをつくり、その鈴木に打順が回ってきた。
「リリーフの失敗を取り戻そう」と雪辱に燃える鈴木は、カウント1-2から木村長彦の直球を3球続けてファウルと粘ったが、7球目に変化球でタイミングを外され、空振り三振。
スリーアウトチェンジでチャンスも潰えたかに思われたが、ラッキーなことに、鋭く曲がり落ちたボールは、ワンバウンドして捕手・伊藤優のミットを弾き、後ろに転がった。
「(空振り三振は)やってもうたと思ったけど、次の瞬間、ボールが後ろに転がっていたので、“よっしゃー!”と思って走りました」(鈴木)
この間に「何かあったら突っ込もう」と心の準備ができていた三塁走者・谷口修一がホームを駆け抜け、振り逃げで1点を勝ち越した。
その裏、鶴岡工も先頭の代打・五十嵐大輔が四球で出塁し、代走・佐藤友和が二盗、三盗を決めて、一打同点と食い下がったが、土壇場で決勝点を拾った“ツキ男”鈴木が踏ん張り、5対4で逃げ切り。出場2度目で甲子園初勝利を挙げた。
「何としても塁に出ようという執念が、振り逃げにつながったんだと思います」と鈴木は結果オーライにニッコリ。
徳永昌平監督も「鈴木には県大会からハラハラさせられています。いつも最悪のことを考えているのですが、振り逃げはうれしい誤算です」と顔をほころばせていた。