最後の打者を三振に打ち取ってゲームセット。ふつうなら勝利の瞬間になるところだが、あろうことか、この場面でまさかのサヨナラ負けに泣いたのが、2010年の大分工。
1回戦の延岡学園戦は、序盤から両チームとも小刻みに1点ずつを取り合う競った展開となり、4対4の同点のまま延長戦に入った。
10回裏、延岡学園は先頭の横山雄二が左前安打で出塁し、二盗。送りバントで1死三塁とチャンスを広げた。
田中太一‐佐藤耕一の大分工バッテリーは次打者を敬遠し、満塁で9番・矢野丈裕との勝負を選ぶ。矢野は初球、2球目と連続してスクイズを試みたが、直球をいずれもファウル。そして、1-2からの4球目にスリーバントスクイズを敢行した。
プロ注目の148キロ右腕・田中はスクイズを察知すると、外角にウエストし、空振り三振に仕留めた。ここまでは狙いどおりだった。
ところが、咄嗟にウエストしたことがアダとなり、これが思わぬ暴投に。この間に三塁から横山がサヨナラのホームを踏んだ。
記録上、最後の打者を三振に打ち取りながら、悪夢のサヨナラ負けで初戦敗退となった田中は「最後はスライダーを外に外してファウルを打たせようとしたが、指が抜けてしまった。いつも練習で投げている球だったのに……。終わり方が変で受け入れられない」と悔やんだ。
田中は同年のドラフトで巨人に3巡目指名で入団したが、16年限りで退団。現在は元ロッテ・初芝清が監督を務めるセガサミーでプレーを続けている。
●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。