カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く本連載、今回は「『お互いに』に潜む意識」をテーマに解説する。

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 営業職をなさっているという智則さん(仮名、38歳)は開口一番、力強くおっしゃいました。

「今までいろいろもめてきましたが、お互いに悪いところは直す努力をして、お互いの信頼を回復していくしかないと思います。昨日も2人でそう話しました。で、どうしたら努力を続けられるのかと考えたのですが、お互い相手を思いやる気持ちをもつことではないかという話もしました。だけど、私はここぞというときに思いやりの気持ちを忘れてしまうことがあるので、どうしたら思いやる気持ちを忘れないのか知りたいです」

 見るからに誠実そうな方です。そろそろ子どもをと考えているけど、こんなにもめていて大丈夫か不安だという妻の直美さん(仮名、35歳)もその話にはまんざらではなさそうです。

 どんなことでもめてらしたのかお聞きしてみると、数ある問題点の一つとして、こんなやり取りが続きました。

智則さん:「つまらないことと言えばつまらないことなのですが……、私が結婚記念日に仕事の接待を入れてしまったら、妻が激昂して私の人格を否定するようなことを言ったとか」

直美さん:「去年も一昨年もそうだったんです。1年目は仕方ないとしても、次は忘れないって言いつつ忘れたのか確信犯だったのかわかりませんが、それで去年もめて、その時手帳に書いたのに、今年またわかっていて仕事を入れたんです」

智則さん:
そこで私が「直美さんは、何か直さねばと思ってらっしゃることありますか?」とお聞きすると、

「私はカーッとなってしまって、言ってはいけないことまで言ってしまうんです」
と答えました。

■「お互いに」には優先順位がある

 お二人の発想によれば、お互いに思いやりの気持ちを持ち続ければ、直す努力が続いて、結果、問題が解決して、信頼関係が回復する、とお考えのようです。今までもこんなふうに考えて、話しあってこられたのでしょうけど、実はこれではどうにもなりません。良さそうな話に聞こえますが、実は、突っ込みどころが満載です。

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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