もちろん、智則さんには別のダイナミックスと歴史があります。

 結婚記念日問題一つとっても、こうですから、双方の気持ちを丹念に話していくのは、気が遠くなるような作業に思えるかもしれません。お二人の場合は、おいでになるたびに、新しい発見をしていきました。智則さんは直美さんの誕生日にまた出張を入れていましたが、事前に気が付いて「あ、ごめん。またやっちゃったけど、1週間前のこの日に誕生会やろうよ」と言ってくれたそうです。トラブルはなくなりはしませんが、直美さんも激高することはなくなりました。

 多くの人が、夫婦の間には問題がたくさんあるから、一つ一つを安直に解決しようとしてしまいます。しかし、それでは、話はしたけど解決できなかった問題、一見解決したように見えるけど(少なくともどちらかには)しこりの残った問題が大量に生産されてしまい、相手に不信感を持つ結果に陥ってしまいます。

 遠回りのように思えても、小さな問題一つでいいので、丹念に丹念に糸をほぐして、2人ともがすっきりした解決をすることこそが、信頼感を得て、一緒にやっていくために何よりも重要なことなのです。(文/西澤寿樹)

※事例は事実をもとに再構成してあります

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