一方、同じ言葉に同意をする直美さんも、腹の底では全く違う期待をしています。「夫が悪いところを直し、自分が夫を信頼できるようにしてほしい」ということです。最初の智則さんの発言は言葉の上だけだったら合意できる内容かもしれませんが、腹の底の話は合意できるはずがありません。

■「合意すればうまくいく」はファンタジー

 誤解しないでいただきたいのは、「腹の底」にあるそれぞれの思いが悪いと言っているのではありません。それが現実なら、そういう考え方や期待のギャップがある現実をスタートラインにしてしか建設的な話はできないのではないか、ということです。

 世の中には、話し合いは「合意」がゴールだという暗黙の了解があります。それはおおむね最もなことではありますが、それが行き過ぎた結果、「合意」ができればうまくいく、というファンタジーがはびこっています。だから、人はどうしても合意して一件落着、としたくなります。わざわざ事を荒立てるような、合意から遠ざかるようなことを持ち出さなくても、と思うのは自然なことです。

 ただ、言葉の上の「合意」があっても「腹の底」が違えばうまく転がらないことがあるというのは、北のかの国が繰り返し教えてくれたことです。逆にののしり合ったり、最後通告を出しあっていても、双方が腹の底で共通の目標があれば話し合いは続くし事態は動く、ということも教えてくれたと思います。

 共通の目標は「一緒にやっていく」ということだとしても、そのために、いきなりそれぞれが何をすべきかと考えるのは、急ぎすぎ、合意に振り回されすぎです。

 急がば回れです。それぞれの気持ちが現状どうなっているのか、つまり、「結婚記念日を忘れない」というような表面的な要求や、3年連続で忘れられてムカついた(傷ついた)という一番表側の気持ちだけではなく、その背景にどのような気持ちのダイナミックスがあり、どのような歴史があってそういう気持ちになっているのかという相手の気持ちの構造を分かるのが最初です。

 ダイナミックスとか歴史というのは例えばこんなことです。

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妻が激昂したワケ