JR徳島駅から、車でおよそ10分。
地元では「蔵本球場」と親しまれている「JAバンク徳島スタジアム」で、独立リーグ、四国アイランドリーグプラスの徳島対高知との一戦が行われたのは、4月25日のことだった。
徳島のスタメン発表。その最初のコールだった。
「1番・ファースト、岸潤一郎」
守備の負担が少ない一塁手は、打力重視のポジションでもある。一方、1番打者は、スピードのある巧打タイプの選手が多い。それだけに、珍しい“組み合わせ”と言ってもいい。
岸は、その「一塁手のリードオフマン」という、ちょっと聞き慣れないポジションに収まっていた。
1回、その岸がいきなりセンター前へのクリーンヒットで出塁。これで勢いづいた徳島は、打者10人の猛攻で5得点を挙げる。2回にも3点を奪い、試合の序盤から、早々と8点の大差をつけた。
そこから逆転負けを食らう、まさかの試合展開となりながらも、岸はグラウンドで躍動していた。
3回、2死無走者での打席。
きれいにミートした一打はセンターの頭を越え、あわやホームランの大飛球。岸は50メートル6秒2の俊足を生かし、一気に三塁を陥れた。
さらに5回、死球で出塁すると、次打者の初球に、バッテリーの緩慢な動きをつき、ディレードスチールも決めた。
「めっちゃ、楽しいんです、高校のとき、4番で投手だったから、足を使うとバテたりするんで、セーブしてたんです。今、とりあえず、野手一本なんで、どんどん走っていきたい。逆に気持ちがいい。“やってる感”があるんです」
甲子園、大学中退、そして、独立リーグへ。
紆余曲折を経て、徳島でプレーを決意した今季、岸は野球の楽しさを、まさしく満喫しているという。
笑顔が、戻ってきた。
甲子園を沸かせた、かつての“大谷2世”が、徳島の地で復活への道を歩もうとしている。
岸潤一郎の名に、懐かしさを覚える野球ファンも多いだろう。高校野球の強豪・明徳義塾高で、投打の「二刀流」として活躍した。2012年の1年夏に始まり、2年夏、3年春夏と4度の甲子園出場。エースとして、甲子園通算6勝、打者として39打数11安打、打率2割8分2厘、1本塁打、5打点を記録している。