今、そのリミッターを完全に外している。

「センスがいいですよね。本人も『盗塁が好き』って言うしね」

 石井も認めるように、加速がついたときのスピード、そしてシュアなバッティングには、高校時代にプロから注目され続けてきただけの、潜在能力の高さが十分に感じられる。

 5月6日現在、チーム全試合の19試合に出場、打率・197ながら、リーグトップの14盗塁をマークしている。

「野球ができる。その楽しさが一番です」

 名門校でのプレー。そこでは「勝たなければいけない」「レギュラーを守らなければいけない」という、半ば強迫観念のようなものに追われ続けていた。

 その苦しさが、笑顔を消していた。

 独立リーグとはいえ、プロの世界は、結果がすべてだ。体を守るのも、技術を磨くのも、いわば自己責任。自分以外の何かにとらわれてきたかのような、これまでの“やらされていた野球”から、解き放たれたのだ。

「楽しいのが一番。今まで、重く野球をやっていましたからね。今までで、声を一番出して、野球をやっているのと違うかなと、自分で思うくらいです」

 だから今、充実感に、満ちあふれている。

 背番号22は、野球を始めたばかりの小学校時代に、最初につけた、思い入れのある番号なのだという。

「初心に戻って、野球を始めた頃のように、楽しんでやろうと思っています」

 ドラフト指名が解禁になるのは、来年2019年だ。まだキャッチボールでも、一塁から、ショートの守備位置、外野の切れ目あたりまでしか投げられないという。

 来季、投手としての活動も行うかは、今後の右肘の回復具合で決めるのだという。

「どちらかに絞りたいですね」

 野球ができるのなら、どっちだっていいのだ。解き放たれた逸材の躍動ぶりに、そう遠くない時期の“覚醒”が、待っているような気がする。

 甲子園、東京、そして徳島。
 
 一見、遠回りのように見えるかもしれない。しかし、野球の楽しさを“再確認”できたと思えば、これでよかったのかもしれない。

 岸潤一郎の復活物語は、まさしく、これからだ。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。