これだけ近年のドラフトがうまく機能していなくても結果が出続けているのは、外国人選手とFAでの補強が成功しているからに他ならない。投手ではサファテ、バンデンハーク、モイネロ、中田賢一、野手ではデスパイネ、内川聖一が主力としてチームを牽引している。しかし彼らも軒並みベテランの域に入っており、次世代への備えが必要になってきた。特に深刻なのが中軸を打てる野手である。

 柳田の存在は大きいが内川と松田宣浩は全盛期を過ぎた感があり、今シーズンもここまで打率2割台前半と大きく成績を落としている。そして彼らに代わる存在になれそうな若手が上林くらいしか見当たらないのだ。過去10年のドラフト上位指名の選手を見ても、野手の指名は少ない。特殊なポジションと言える捕手を除くと、最後に上位指名で獲得したのは2010年の柳田ということになる。昨年のドラフトでは清宮幸太郎(日本ハム)、安田尚憲(ロッテ)の獲得を目指したが、いずれも抽選で外れる結果となった。現有戦力の充実ぶりに安心して、将来の中軸候補を獲得してこなかった“つけ”がチームに重くのしかかっていると言えるだろう。

 チームの中心選手が充実しているとどうしても若手の抜擢が遅れ、その後のチームが弱体化するケースは少なくない。現在の中日がまさにその状態であり、日本ハムはそのようにならないために主力選手を放出しているようにも見える。期待の若手と言われた選手も抜擢の時期を逃してしまうとそのまま殻を破ることができないことも多く、現在のソフトバンクにもその危険性のある選手は少なくない。故障者が続出し、主力選手が不振に陥っている今の状況はチームとしての選択を迫っているようにも見える。この危機を乗り越えて、さらに常勝軍団への道を突き進むのか、乗り越えられずに低迷期に入ってしまうのか、今後のソフトバンクの戦いぶりに注目したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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