ここでいつもベトナム人に先んじられた。彼らの頭には、明朗タクシーの正確なロゴが刷り込まれているから、遠くからでも正確に見抜くことができたのだ。

 いつもアジアの熱気に圧倒された。

 昼間の時間はバスもあった。152番という路線バスで、安かったが、とんでもなく時間がかかった。中心街にあるベンタイン市場まで2時間以上かかった。タクシー争奪に負け、このバスにいつも乗っていた。しかし日も落ちると、このバスもなくなる。タクシー競争に参戦しなくてはならなかった。

 ところが1年ほど前、空港前の駐車場に突然、バス乗り場ができあがった。路線も一気に増え、いまではなんの問題もなく、空港から市街まで冷房付きのバスで向かうことができるようになった。

 旅行者にしたら、ありがたいことだった。もうタクシー争奪に加わる必要はない。

 空港から市内までの足が整い、スムーズな旅がつくられていく段階になった。それは悪いことではない。立派な国になってきたということだろう。

 しかしその時点で、経済発展のピークは通り越している。そんな国の進化過程を、僕はアジアの国々で見続けてきた。混沌としたエネルギーが弾け、外国人旅行者が呆然と立ち尽くす時代、その国はエネルギーに満ち、経済発展の渦中にある。外国人が圧倒的なエネルギーに翻弄されることがなくなったとき、その国の衰退がはじまる……。

 市街に向かうバスのなかでそんなことを考えていた。

[AERA最新号はこちら]