さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第42回はベトナム・ホーチミンのタンソンニャット国際空港から。
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ひとつの国の経済発展は人生に似ている。高度経済成長はやがてピークを迎える。そして少しずつ衰退がはじまり、年老いていく。
ホーチミンシティのタンソンニャット国際空港から、ベトナム経済を眺めるという旅行者目線で語れば、ベトナムは経済のピークをすぎたばかりのように映る。
ここ2年ほどで、タンソンニャット空港は大きく変わった。市内への足も整えられてきた。
それまで市内への足はタクシーしかなかった。空港タクシーはべらぼうに高く、ぼったくりタクシーの運転手も声をかけてくる。ホーチミンシティでは明朗タクシーは3社ほどに限られていた。このタクシーにどうやって乗るかというと、上階の出発階にあがり、空港まで客を乗せてきた明朗タクシーを捕まえるしかなかった。
スロープをのぼってくるタクシーのロゴを識別し、明朗タクシーに駆け寄っていく。しかし、ぼったくりタクシーは、明朗タクシーのロゴに似せたマークをつけるという姑息な手段にも出ていた。