さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第41回はアメリカのロサンゼルス空港から。
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いまでもいちばん緊張する空港である。そしていちばんほっとする空港でもある。
ロサンゼルス空港は、僕にとって、いまも昔もアメリカの入り口である。
僕らの世代は、次々に入ってくるアメリカ文化のなかで育った。小学校2年生のとき、我が家にテレビが入った。そこから、『奥様は魔女』とか『逃亡者』といったアメリカドラマが流れてきた。角の丸い冷蔵庫から、ガラス壜に入った牛乳をとり出すアメリカ人。そんな光景を、信州の田舎町で眺めていた。
小学校の5年のとき、はじめてコーラを飲んだ。薬っぽい味に顔をしかめたが、友だちの前では、「あんなもの平気さ」と粋がっていた。
アメリカを歩くようになり、クリーブランドやアーカンソーなどを訪ねると、その地名をどこかで聞いたことがあることを思い出す。きっとテレビから流れていたのだと思う。僕らのなかには、意味もなくアメリカが入り込んでいた。
ベトナム戦争反対のうねりは、僕の通う高校にも及んでいた。民主主義、ボブ・デュラン、UCLA、ジーンズ……。明るく乾いた西海岸の気候に憧れもした。