しかし僕は大学に入ってからアジアに足を向ける。友人がアメリカに向かっていくことへの反発もあったが、どこか恐れ多いという感覚も混ざっていた気がする。

 1988年、30代も半ばになって、はじめてアメリカに向かった。緊張していた。飛行機を降り、入国審査場までの道を進んでいくと、図体の大きい職員に呼び止められた。びくっとした。しかし尋ねられたのは、飛行機が到着した時刻だった。それを伝えると、

「時間がかかりすぎている」

 といった。

 そんなことのために呼び止めるな、と思ったが、職員の英語がわかったことでほっとした。ターミナルを出るとたばこのにおいが漂ってきた。肩の力が抜けていく。日本で見聞きしていたのは、アメリカを席巻する禁煙の嵐だったのだ。

 今年の6月、ロサンゼルスの空港にいた。大統領のトランプがツイッターで発信した「入国審査を厳しくする」という発言を、同行したカメラマンは気にしていた。しかし僕はなにも聞かれなかった。

 ターミナルを出ると、いつも通りのたばこのにおいがした。

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