ここで疑問に思うのは「学校は証拠をなぜ捨てられるのか」という点です。文部科学省が2013年に定めた「いじめ防止基本方針」も、いじめに関する指導記録の保存を学校に求めています。「証拠隠滅」の罪に当たらないのでしょうか。
複数の弁護士に聞いたところ、アンケート破棄は「合法(刑法上の罪にはならない)」でした。
重要な判例もあります。1998年、当時中学1年生の女子生徒がいじめを苦に自殺した「富山いじめ自殺裁判」です。
女子生徒が自殺したあと、クラスの子どもたちが追悼の作文を書きましたが、3カ月後に担任によって作文は焼却処分。一時期まで、なかったことにされていました。
同級生の死を思って書いた自分の作文が燃やして捨てられた子の気持ちを思うと、なんと言っていいかわかりません。
この焼却処分などが裁判でも訴えられました(親への報告義務違反)。しかし、地裁、高裁、最高裁と3回とも、担任の行動は問題ないとされています(最高裁は上告不受理)。
このあと、さまざまな遺族や弁護士によって、いじめに理解のある判例も出ていますが、司法が「いじめ自殺の責任から逃げる学校」を守るような判例を積み重ねてきたことは事実です。それは遺族が「真実を隠された」という思いになるばかりか、他の生徒も傷つける結果になります。
■事実隠ぺいが同級生も傷つける
当時中学1年生の女子生徒が自殺した「北本市いじめ自殺裁判」では、一審の判決を受け、亡くなった女子生徒の友人が二審で証言台に立ちました。私もその場にいました。
遺族の主張によると、亡くなった女子生徒が受けてきたいじめは、悪口や無視、靴や持ち物を隠される、ジャンパーを鳥小屋に投げ入れられる、荷物を過剰に持たされる、トイレへ連れ込まれて「便器に顔を突っ込め」と言われるなどです。
2005年10月11日「生きるのに疲れました。本当にごめんなさい。(中略)楽しいこともあるけどつらい。いやな事は何億倍もあるから」と書き残し、女子生徒は自ら命を絶ちました。