意外だった。KISSというバンドは奇抜なメイクや衣装で、特にジーンは火を噴き血を吐くパフォーマンスを行うという特異性もあり、他のミュージシャンたちとの交流は少ないと感じていた。しかし、ジーンはさまざまなアーティストと共演していたのだ。それにしても、ジーンとヴァン・ヘイレンのコラボレーションは何となくイメージできるが、ボブ・ディランとの共演はちょっと想像がつかない。
「よし、聴かせてやろうじゃないか」
疑いの視線を感じたのか、ジーンはパソコンをJBLの小型スピーカーにつないで、次から次へと曲をかける。ボブ・ディランとの演奏、ヴァン・ヘイレンとの演奏。かなり新鮮だ。
ボブ・ディランとはまったく活動が重ならなさそうだが、どう接点を持ったのだろう?
「誰に対してだって常に俺は直球勝負さ。気に入った女の子に出会えば、君が欲しい、と言う。ボブ・ディランにも一緒に曲を書きたい、と電話をした。答えはいつだってYESかNOしかない。そして、ボブはYESだった。そして、2日後にはLAのビバリーヒルズにある俺の自宅スタジオにやってきた。1992年だったと思う」
そう言って、さらに曲を聴かせてくれる。KISSで担当しているベースとヴォーカルはもちろん、ギターやドラムスも自分で演奏している曲が多い。また、KISSでのハードなアプローチとは趣を異にするポップな作品も目立つ。
「デビュー前、1960年代にはそれほどハードな音楽はやっていなかった。というのも、当時の俺はビートルズにあこがれていたからね」
そう言い、ハイスクール時代の友達とデュオで録音した曲も聴かせてくれる。2チャンネルの自宅レコーディングだ。レノン&マッカトニーのイメージだという。そこで、ジーンの好きなビートルズ・ナンバーを訊くと、「アクロス・ザ・ユニバース!」と即答した。ビートルズの後期、アルバム『レット・イット・ビー』に収録されている曲だ。ジョン・レノンがソフトに歌う作品で、マントラの「我らが導師、神に勝利あれ」がくり返し挿入される。ジーンはKISSでハードロックをやり、しかしリスナーとしては神への感謝を込めたビートルズの曲を聴いているのだ。人は見た目だけで判断してはいけない。