都内のラグジュアリーホテルのスイートに入ると、目の前に巨大な壁のように、ジーン・シモンズがいた。あのKISSの時の歌舞伎役者のようなメイクはしていない。しかし、ノーメイクでも迫力は十分。真っ黒いサングラスを通してニヤリと笑っているのがわかる。
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「Nice to meet you!」
挨拶をすると、ジーンはこぶしを突き出してきた。えっ。一瞬身構えた。しかし、もちろん殴ってきたのではない。シェイクハンドではなく、グータッチを求めてきたのだ。
こうして、ジーン・シモンズのインタビューは始まった。
ロックバンド「KISS」のオリジナルメンバーでベーシストのジーンは、今年デビュー50周年を迎えた。半世紀もロックをしているのだ。それを記念して『ジーン・シモンズ:ザ・ヴォールト・エクスペリエンス』をリリースする。
このボックスセットは、まず“ボックス”がすごい。高さ45センチ、横幅と奥行きは5センチ。総重量は17キロもあるのだ。持ち運べないので、キャスターが付いている。
見せてほしいと言うと、ジーンの岩石のような顔が突然申し訳なさそうな表情になった。
「それなんだが……、今、ここにはない」
なぜ? そのプロモーションで日本に来たんじゃないのか?
「物流会社に盗まれたんだ」
悔しそうな顔で打ち明けられた。盗まれたとはただ事ではない。本当だろうか? 追求してもしかたがないので、その17キロのボックスの内容について訊いた。
「OK。中身は全部ここにそろっている! 10枚で150曲収録している未発表音源のCD、ハードカバーの写真集、オレのフィギュアなどだ。どうだ、豪華だろう!」
このボックスは$2000。日本円で20万円を超える。CDショップでは販売しない。レコード会社は通さず、ジーンの個人サイトだけで販売する。なかなかのビジネスマンだ。
内容をずらりとテーブルに広げた。その中でもやはり一番気になるのは未発表音源だ。
「1960年代から最近までのあらゆるレコーディングを収めている。ポール・スタンレー、エース・フレイリー、トミー・セイヤーなど新旧KISSのメンバーと演奏した曲はもちろん、ボブ・ディラン、エドワード・ヴァン・ヘイレンとアレックス・ヴァン・ヘイレン、エアロスミスのジョー・ペリーとのセッションも入っている」