東京を中心に首都圏には多くの医学部があるにもかかわらず、医師不足が続いている。現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で「女性医師の増加と支援体制が問われる」と明かしている。
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医師不足対策を考える上では、女性医師の増加についても取り上げるべきでしょう。
女性医師は出産や子育てにより、仕事を離れざるを得ない期間があります。14年の日本医師会の報告によれば、女性医師の就業率は、医学部卒業後すぐから低下し始め、35歳で76%まで低下し、その後、ゆっくりと回復しています。
一時的な離職も含めれば、医師になってから10年以内に86%の女性医師が離職します。女性医師が離職する理由の大部分が出産と子育てです。(注1)
出産・育児期間中の休職は女性の当然の権利であり、深刻な少子化問題を抱えている我が国では、むしろ支援すべきです。しかし、医師不足を議論する際には無視できない問題になりつつあります。
出産や育児による休職を考慮すれば、女性医師が労働できる時間を、男性医師より2割程度割り引いて考えなければなりません。
首都圏には、女子学生の多い医学部が多くあります。医学部に進む女性は今後も増えるでしょう。女性医師が増加すれば、医師を増やしても、その効果は限定的になってしまいます。
決して私は女性医師の増加を批判しているわけではありません。女性医師の増加は、日本の社会と医療にとって歓迎すべきことです。女性は男性と異なる視点を持ち、これまでの経験からして、リスクをとって行動する人が多いように感じます。
逆に、男性医師の多くは保守的だと感じます。安定した地位と所得が期待でき、親や教師の期待を意識して医学部受験を決めた人が多いのではないでしょうか。