今回このポストを事務の副長官に与えることは、官僚たちに対して、「君たちの人事への介入は控えるから、僕たちの利権政治にも協力してね」と媚びるメッセージを出したことになる。もちろん、杉田氏は安倍首相の信頼が厚く、官僚の言いなりになることはないだろうが、過去、政官で壮絶なバトルの対象になった重要ポストを貢ぎ物として官僚側に差し出す意味は極めて大きい。
こうした姿勢からも、安倍政権が官僚や族議員の反逆を恐れずに改革を進める姿勢をとれないということがよくわかる。最初から気合負けしていると見られても仕方ないだろう。
●二階幹事長の悪ノリ「日本中に核シェルター構想」
結局、改革できない安倍政権の「経済最優先」政策は、これまでの日銀の「円のバラマキ」と「公共事業のバラマキ」の「二つのバラマキ」に頼る旧態依然の利権政治となる可能性が高い。
内閣改造が行われたのが8月3日。8月上旬と言えば、各省が来年度予算案を事実上決定するタイミングである。計数整理や印刷などの事務作業を経て8月末に財務省に予算案の書類を提出するためには、お盆前までにすべてを決定しておく必要がある。この時期に改造を行って新任大臣が着任しても、春から積み上げてきた政策と予算の議論をひっくり返すのは事実上不可能。結局は官僚と族議員が結託してできた予算案にサインするだけに終わる。
最近の族議員の動きでは、例えば、農水族が、EUとのEPA(経済連携協定。ワインやチーズの関税引き下げなどで日本の農家に影響が及ぶとされる)交渉の大枠合意と同時に農水族議員が、EPA対策と称して、「補正予算が必要」とぶち上げたばかりだ。しかし、よく考えると、TPP交渉妥結を受けて、TPP対策予算を15年度と16年度の2年にわたり、合計6000億円以上計上したばかりで、そのTPPは米国の脱退で実施される見込みがない。それでも、一度ついた予算は使うというのが安倍政権の方針で、その旨の閣議決定(質問主意書への答弁)までしている。
今回も、衆議院選挙が近いので、おそらくEUとのEPA対策でほとんど意味のないバラマキ農業予算がつくのは確実だ。
もう一つ驚いたのは、北朝鮮のミサイル発射を口実にした全国への公共事業のバラマキ構想だ。ミサイル対策で防衛費拡大というならわかりやすいのだが、公共事業にこれを利用するというから開いた口が塞がらない。
それは何かといえば、「核シェルター建設」である。6月に自民党が提言していたが、7月29日に二階俊博幹事長が改めてその実現を目指す考えを表明した。日本中に核シェルターを作るとなれば、いくらお金があっても足りないと心配になるが、二階氏は、「財政がどうだこうだと言っている時ではない。普通の予算や普通の年次計画などではなく、頭をフル回転して対応しなければいけない」と述べたそうだ(朝日新聞デジタル)。国民の命は金では買えないと言えば、いくらでも予算をとれるという計算だろう。悪ノリも甚だしいではないか。