

第1作「花の生涯」の尾上松緑と佐田啓二、第2作「赤穂浪士」の長谷川一夫と宇野重吉という豪華なキャスティングで人気を博した大河ドラマ。その3作目「太閤記」では、緒形拳、高橋幸治、石坂浩二という当時はまったく無名だった若手を抜擢して世間を驚かせた。
新国劇の辰巳柳太郎の弟子だった緒形、文学座の研究生だった高橋、慶応大学の学生だった石坂の三人が、主人公である豊臣秀吉、織田信長、石田三成役に登用されたのだから、超大物を起用した前二作とのあまりにかけ離れた路線変更に、世間が驚いたのは当然だろう。
さらに、ドキュメンタリー番組しか手掛けたことがない若手の吉田直哉ディレクターが演出に抜擢されことが、それに輪をかけた。
そんな新人俳優、若手演出家のなかで奮迅したのは、ねね役にキャスティングされた大映の藤村志保さんだった。彼女は大映で既に20本の映画に出演している人気女優で、市川雷蔵や勝新太郎の相手役としても欠かせない存在になっていた。藤村さんがこう語る。
「NHKから大映の方には何回も出演依頼があったらしいのですが永田雅一社長がガンとして受け付けなかったそうです。でもあまりに何回もオファーがあったのでついに根負けしてOKが出て、初めてテレビドラマに出演しました。当時、緒形さんは新国劇のホープだったので、昼と夜の公演が終わってからの収録になり、撮影は夜中までかかることが多かったですね。緒形さんのお芝居は新国劇らしいインパクトがあって、お上手でした。舞台とテレビの掛け持ちは大変だったと思いますが、笑顔をたやさず、その笑顔が飛び切り素敵な方でした」
当時、緒形は28歳、藤村さんは26歳、演出の吉田直哉は33歳だった。