「自分が試合に出るときは、集中しているので他の人の演技を見ない」という安藤が、唯一しっかり見たのが、ソチ五輪の浅田の演技だ。安藤はすでに現役を退いていた。チーム戦は現地で、ショートとフリーは日本でテレビを通して観た。
「ショートは彼女の代名詞でもあるトリプルアクセルを大事にする気持ちが演技から伝わってきました。でもそれがプレッシャーにもなっていたんじゃないかな」
最初のトリプルアクセルで転倒し、まさかの16位。浅田自身も、引退会見で「伊藤みどりさんのようなトリプルアクセルが跳びたいと思って、ずっと夢を追ってやってきた」「その半面、悩まされることも多かった」というトリプルアクセルだ。
「(翌日の)フリーではすごく吹っ切れた感じがして、周りの期待以上に『自分のスケートがしたい』という気持ちがやっと見えた気がしたので、ああ、真央らしくリンクの上でいられてよかったね、って思いました」
引退会見で「もう一度人生があるならスケートの道は行かない」と答えた浅田を「意外でした」と安藤はこう思いやる。
「スケート漬けの人生だったからかな……。私は生まれ変わってもスケートをしたい。私はエンジョイして、わがままでやってきたから、かもしれない(笑)。彼女はもう戦わなきゃいけないものから解放されたと思うので、これからはいろんな人と出会っていろんなことと触れ合って、一段と輝く女性になって、スケーターとしてももっともっと輝いていくと思います」
浅田に「また一緒に滑ろうね」とメッセージを送った安藤。
「日本のフィギュアスケートの歴史がようやく作り上げられてきたと私自身は思っていて、今後は結果だけじゃなくてフィギュアスケートの魅力をもっともっとたくさんの人に知ってほしい。だから、アイスショーを通して、フィギュアスケートの新しい魅力を感じてもらえるように、お互いに頑張っていけたらなと思います」
(文中敬称略)
(取材・文/深澤友紀)
※AERAオンライン限定記事