「85歳以上で胃がん以外での死亡割合が増えるのは、術前からの持病や老衰が影響するためです。また胃切除による後遺症で体重減少や低栄養、食べた物の逆流による誤嚥性肺炎が起こる場合もあります。特に胃全摘では、夜間就寝時の逆流も多くなり、高齢者は嚥下機能が低下しているため誤嚥による肺炎が起こりやすい。繰り返すと、致死的になることもあるのです」
藪崎医師も、高齢者への胃全摘は極力控えたほうがよいと述べ、手術全般にあたっても術後合併症への配慮が重要だと話す。
「当科では、手術する前に術後合併症を起こすリスクが高い人を見つけ、術前にADL訓練などをおこない、術後合併症を減らす取り組みをしています」(藪崎医師)
16年から、「CGA(総合的機能評価)」という、事前に患者の合併症リスクを測るチェック票を導入した。▼日常生活能力▼認知機能▼意欲の三つを点数化して、チェックする方式だ。
「現在のところ客観的数値として合併症を減らせているかどうかは解析中です。印象としては術後から退院までの経過はとても円滑になったと思います」(同)
学会でも高齢者に対する治療の報告は増えてきた。個々の病院ではさまざまな評価方法を使って独自の「物差し」を作っているようだ。今後はそれが汎用性のある「物差し」として確立されることが望ましいと藪崎医師は話す。
それに対して、日本消化器外科学会理事長で東京大学病院消化器外科教授の瀬戸泰之医師はこう話す。
「現在、学会やガイドラインでの統一見解はなく、学会や論文での発表も一施設での報告というのが現状です。高齢者の手術成績などをNCDのデータを使って評価しようという動きはあります。将来は、高齢者への手術適応や適切な術式を全国規模で検証することが可能になるでしょう」
(ライター・伊波達也)