がん死と他病死の関係(週刊朝日ムック『いい病院2017』より)
がん死と他病死の関係(週刊朝日ムック『いい病院2017』より)
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 高齢者(75歳以上)へのがん手術には科学的根拠がなく、現場の医師の判断に委ねられている──。週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2017」では、「高齢者のがん手術」と題して、各病院の判断基準や実情を取材している。今回は特別に、がんの中で大腸がんに次いで2番目に年間罹患者数が多い胃がんについて紹介する。

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「胃がんの手術は、技術が高いレベルに達しており、安全性も高く、高齢者であってもおこなうことが多いと思います。かなり高齢だと何もしない選択肢もありますが、手術をしないほうがいいというエビデンスはありません。高齢者に手術すべきかの判断基準に正解はなく、それぞれの医師の判断に委ねられています」

 そう話すのは、全国でもっとも多く胃がんの手術を実施するがん研有明病院の胃外科部長、比企直樹医師だ。

 同院で15年に実施した537例の胃がん手術のうち、75歳以上は約20%を占める。年々、胃がん手術の高齢化が進んでいるという。

「当院は高齢者に手術をすべきかどうか、持病の有無やADL(日常生活動作)を見て決めます。一日のうち半分以上寝ているような方は手術しませんが、元気ならば90歳でも手術は可能です」(比企医師)

 一方で、高齢者に対して徹底的にがんを取りきる根治手術が必要かどうかは疑問だという。特に胃全摘出手術は避けたほうがいいと話す。

「高齢者に胃全摘手術をすると一気に衰弱します。私たちの検証では、餃子ほどの大きさの胃を残すだけで、手術直後の健康な人の9割くらいは食べられます。しかし、全摘すると5~6割程度しか食べられなくなるので体力や筋力が落ちてしまいます」

 体重が15%以上、筋肉が5%以上減少すると術後の化学療法は続けられないというデータがある。化学療法を受けるだけの体力があった人も、胃全摘では20%弱体重が落ち、骨格筋も落ちる。そして、「サルコペニア」(筋力や身体機能が低下する状態)に陥ってADLも落ち、化学療法もできずに生存率も低下すると比企医師は指摘する。

 また、比企医師らは、85歳以上で手術ができた77人の手術後を追跡した論文を出している。それによると、早期がん(ステージI)の5年生存率は約60%と低いことがわかった。

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