関西医科大医化学講座の伊藤誠二教授の研究テーマは、難治性疼痛の発生機構の解明と治療への応用などだ。

「転んだ時にさする(触刺激)と痛みが和らぐことは誰でも経験していますね。帯状疱疹が治ったあと皮膚がきれいになっても、肌着を脱ぐ時に強い痛みを感じるのはなぜなのか。触刺激が痛みに変わる反応は研究を開始した20年前はほとんど着目されていないテーマでした。この反応は脊髄の変化であることを見いだし、現在も新しい技術を用いて研究を続けています」

 伊藤教授がそう話すように、関西医科大が疼痛学分野に強いのは、(1)共同実験施設が整備されており、毎年最新の機器を購入している、(2)専門分野の異なる優秀なスタッフが集まっている、(3)学内で脳科学と結びついた研究ができる、(4)日本では数少ない心療内科があり、基礎と臨床系講座がタイアップしている、(5)学外と共同研究を積極的に進めている、といったことが関わっている。

■タコツボ的な研究におちいらない

「本当に知りたいことに取り組む。そのために、惰性に流されず、新しいテーマ、技法に挑むという姿勢があるからでしょう。その結果、痛みの研究がおもしろくなり、研究者が高いモチベーションで取り組めます。なぜおもしろいかというと、分子から医療まで広い範囲が対象になるからです。学問的にも進歩が著しい脳科学と同じ土俵にあり、タコツボ的な研究におちいらないのが魅力です」(伊藤教授)

 逆境を乗り越えて優れた研究成果をあげている大学がある。1999年、横浜市立大医学部附属病院(現・横浜市立大附属病院)では手術患者の取り違えという重大な医療事故を起こした。その後しばらく学内では研究どころではないという雰囲気が濃厚だった。

 それでも横浜市立大には優秀な若手医師が集まってきた。横浜市立大医学部麻酔科学教室の後藤隆久教授が言う。

「前任者の教育重視の方針を引き継ぎ、私はまず臨床教育に力を入れました。若手の中で知的好奇心が強い者は、臨床の実力がある程度つくと、もっと先へ先へと研究したくなる。鉄は熱いうちに打て、という思いで研究させました。臨床と研究の両立は多忙ですが、臨床上の疑問を研究に結びつけるという姿勢、つまり臨床が強くなって初めて研究も強くなるという考え方が、研究成果をあげた背景だと思います。生理学や薬理学など、学内の多くの優れた基礎医学教室が私たちの研究をサポートしてくれたことも大きかった」

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