「アリガトウ。ワタシ、ビールね。楽しくいこうね。何食べる? 食べるものもいっぱいあるよ。おいしいよ。歌おうよ。楽しくね」

 こうして約1時間。から揚げや焼きそば、おにぎりなどの料理を注文した。ひと目で冷凍食品だとわかるチープさだ。これらの料理はなぜか別料金で一皿500円から。最初の説明では、食べ放題だったはずだけど…。疑問に思う暇もなく、今度はホステスがしつこくカラオケに誘ってくる。

「お兄さん、歌おうよ。デュエットしよ。楽しいよ。歌うと。一緒に歌おうよ」

 客がひとりで歌えば歌い放題だが、ホステスとデュエットすると、その分は別料金だった。その場の雰囲気にのまれ、気がつけば『愛が生まれた日』『男と女のラブゲーム』など定番のデュエットソングを一緒に歌っていた。

「歌わないの? じゃ、飲もうよ。今日、楽しもう。ボトルならどんどん飲めるよ」

 コップならば、何杯飲んでも時間内で飲み放題だが、ボトルを注文すると、これも別料金。断ろうと思ったが、ホステスに見つめられ、心ならずも焼酎のボトル1本を注文してしまった。

「もうすぐ時間だけど、どうする? まだいるか?」

 ホステスが時間を告げる。清算を頼むと、その金額は2万7000円! 2000円ポッキリのつもりが、10倍以上になってしまった。残されたのは、薄くなった財布と強烈な香水の匂いだけだった。

(フリーランス・ライター・秋山謙一郎)