




「カツ丼」と聞いてどんな丼を思い浮かべるだろうか。
ほとんどの人は、とんかつをだしで煮て卵でとじたものを思い浮かべると思われる。しかし、全国には卵とじではないカツ丼が本来のカツ丼だと思っている人も多い。たとえばソースカツ丼はその代表で、卵でとじたカツ丼よりも、ソースカツ丼の方が早くに登場しており、これこそがカツ丼の元祖だという説もあるほどなのだ。
有名なところで、会津のソースカツ丼がある。大正時代から親しまれてきたといわれる、いわば庶民の味で、千切りキャベツの上にソースに浸したとんかつを乗せるオーソドックスなスタイルだ。会津ではソースで煮込んだとんかつを乗せるお店もあり、煮込みタイプのほうが先に誕生したという話もある。
同じくソースカツ丼地域としては、1993年からソースカツ丼でまちおこしを行っている駒ケ根市も有名だ。こちらもソースに浸したとんかつをご飯に乗せるスタイル。同じ長野県の伊那市でもソースカツ丼が定番で、どちらが発祥の地かで駒ケ根と伊那は論争を巻き起こした時期もあった。
福井のソースカツ丼も外せない。福井での発祥といわれている「ヨーロッパ軒」は、もともとは東京の早稲田に1913年から店を構えていたが、1923年の関東大震災を期に福井に移転。ソースカツ丼発祥の店として、今では複数店舗を抱える有名店となっている。
諸説ある「ソースカツ丼発祥」だが、最も一般的に語られるのが、高畑増太郎氏が大正2年に東京の料理発表会で披露したという説だろう。実はこの高畑氏がヨーロッパ軒の創業者なのだ。そういう意味では、ソースカツ丼発祥の地は早稲田ということになりそうだ。
楽天トラベルが全国47都道府県、全国の人気旅めしを調査した「旅めしランキング」によると、代表的なソースカツ丼地域である会津をようする福島県では4位に、キャベツの乗らない「上州ソースカツ丼」が有名な群馬県では5位に、長野県では駒ケ根ソースカツ丼が9位に、ヨーロッパ軒のある福井県では、堂々の2位に選ばれている。
さらに同じソースカツ丼でも、岡山ではウスターソースの代わりにドミグラスソースをかけるのが定番だ。ドミグラスソースは「ソース」ではあるが「ソースカツ丼」とは呼ばないのが一般的だという。岡山では「デミカツ丼」と呼ばれることが多く、ソースには各店のこだわりが光り、トッピングもキャベツや生卵など、お店によって違うので、食べ比べてみるのもいいだろう。
新潟の代表的なB級グルメのひとつである「タレカツ丼」は、とんかつをしょうゆベースのタレにくぐらせ、ごはんの上に乗せたものだ。他の地域では、群馬県下仁田町では「下仁田カツ丼」として、岐阜の一部地域でも「しょうゆカツ丼」として親しまれている。
他にも、あんかけカツ丼やタルタルソースカツ丼など、バリエーションには事欠かない。しかし、おろしカツ丼やカツカレー丼、みそカツ丼までいくと、派生した丼と考える方が正しいだろう。
昔から、「カツ」が「勝つ」に通づることから、げんを担ぐ際によく食べられてきた「カツ丼」。全国で食べられているカツ丼は、決して同じものではないが、地域の人々に愛され、親しまれていることは間違いない。