「要するに、遺言があれば相続人が皆で話し合う遺産分割協議をしなくてもすむのです。当然、遺産分割協議書を作る必要もありません」(廿野さん)
だとすると、自分の死後にもめそうな可能性があるなら、絶対に遺言を作っておいたほうがいいことになる。きょうだいの仲が良くても安心してはいけない。長年たまっていた感情が噴き出して争いが始まるのが相続だからだ。
「相続対策と聞かれたら、まず『遺言を作ること』と言うのが口癖になっています」(同)
遺言を書くことがもめない相続の第一歩なのだ。せっかくなら、ちゃんとしたものを作りたい。折しも40年ぶりの相続大改正が進行中で、制度改正に対応したものにもすべきだ。
廿野さんに、遺言づくりで大切なポイントを解説してもらおう。
冒頭のケースが示すように、まずは法的に有効なものを作ることだ。
今回の大改正でもこの点で「規制緩和」が行われ、自筆証書遺言を利用しやすくなった。以前は全部手書きでないとダメだったが、財産目録のパソコンでの作成や登記簿謄本の添付が昨年から認められるようになった。
また、今年7月からは、自筆証書遺言を法務局が保管してくれる制度も始まる。
「パソコンや登記簿謄本が使えることは書き損じの防止につながります。法務局は自筆であるかどうかや、日付、署名やハンコの有無など形式面で不備がないかをチェックしてくれます。改正は無効な遺言が減ることにつながります」(同)
廿野さんによると、土地が「地番」ではなく「住所」で書かれていたため土地が特定できず無効になった例や、遺言者の押印がないという一点で無効とされたケースもあったという。そうしたミスが少なくなるのは画期的とするが、それでも自筆証書遺言はすすめていないという。
「やはり作った時点で有効性が保証される公正証書遺言が一番堅い。一定の手続きが必要なのは法務局でも公証役場でも同じです。費用は公証役場のほうが高くなるかもしれませんが、それを節約して仮に遺言が無効になったらどうするのか。『遺産分割協議を行うことになるのですよ。それをイメージしてください』と、相談者にいつも言っています」(同)
(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2020年4月3日号より抜粋