帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
帯津三敬病院 (撮影/多田敏男)
帯津三敬病院 (撮影/多田敏男)

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「今日の日を大事にする」。

【写真】帯津三敬病院

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【ポイント】
(1)死が身近だと今日一日がかけがえのないものに
(2)今日一日を生きた喜びを明日につなげたい
(3)どんな一日であろうとそれを大事にする

「雨の朝巴里に死す」という映画を観たことがあるでしょうか。1955年の日本公開ですから、私の年代より上でないと、劇場では観てないと思います。当代一の美貌を誇ったエリザベス・テーラーの主演です。彼女は映画の中で恋人に向け、こういう科白(せりふ)を語ります。

「いろいろ楽しいことをして愉快にやり、毎日をこれが最後の日だっていうふうにして暮らしたいわ」

 この科白について、映画評論家の淀川長治さんは、

「舞台は、ドイツ軍から解放されて歓喜にひたるパリの街。(中略)ちょっと聞くと、『いまが楽しければ、あとは野となれ山となれ』みたいな刹那的な言葉に思えるかもしれません。けれども、それまで戦争で死と背中合わせの暮らしをしていたという背景を考えれば、いかに彼女が生きていることの嬉しさを実感しているかがわかるでしょう」(『生死半半』幻冬舎文庫)

 そうなのです。死を身近に感じれば感じるほど、今日生きていることの喜びが深くなります。今日一日がかけがえのないものになるのです。日々、がん患者さんと付き合っていると、それを感じざるを得ません。

 私の病院のスローガンは「今日より良い明日を」です。今日一日、生きることができた、その喜びを明日につなげたいという思いを込めています。

 長年、がん治療に携わってきましたが、がんほどミステリアスなものはありません。がん治療の経過については「明日のことはわからない」というのが、実感なのです。ですから、まずは今日一日をしっかり過ごして、それよりも少しでも良い明日を目指すしかないのです。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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