統廃合の対象リストから外れた東京都済生会中央病院=東京都港区 (撮影/多田敏男)
統廃合の対象リストから外れた東京都済生会中央病院=東京都港区 (撮影/多田敏男)
この記事の写真をすべて見る
厚生労働省のリストから外れた病院 (週刊朝日2020年4月10日号より)
厚生労働省のリストから外れた病院 (週刊朝日2020年4月10日号より)
入院ベッド(病床)の機能別の種類/病院の再編を巡る主な動き (週刊朝日2020年4月10日号より)
入院ベッド(病床)の機能別の種類/病院の再編を巡る主な動き (週刊朝日2020年4月10日号より)

 病院を統廃合して減らすという国の構想が迷走している。統廃合の議論が必要だとした公立・公的病院のリストを昨年9月に公開したが、反発を浴びて修正。約440病院について方向性を決める予定だったが、コロナショックもあって見通しは立たない。感染症対策を担う公立・公的病院の重要性は高まっており、統廃合せずに存続するところが増えそうだ。

【表】厚生労働省のリストから外れた病院はこちら

*  *  *

「新型コロナウイルスへの対応で病院の機能はマヒしかかっている。今のままだと重症患者を診られない病院も出てくる」

 3月19日に都内であった厚生労働省のワーキンググループ。病院の統廃合について議論するなか、公立病院の関係者がこう訴えた。感染症対策で重要な役割を担う公立・公的病院の統廃合には、もともと地元自治体から強い反発が出ていた。新型コロナウイルスへの対応能力不足が明らかなのに、統廃合を議論している場合ではないという意見だ。

 国は統廃合で病院を減らし、医療費を抑えようとしている。国民の自己負担分を除く国の医療費は2018年度の39.2兆円から、団塊の世代が75歳以上になる25年度には約47兆円に、65歳以上の高齢者人口がほぼピークに達する40年度には最大約68兆円まで増えると試算する。

 これだけ増える試算でも、病院や入院ベッド(病床)をある程度減らすことが前提だ。国は全国の病床数について、13年の134万7千床から25年までに約1割超削減できるとしている。

 高齢化で求められる病床も変化した。機能別に主に4種類に分けられるが、「高度急性期」や「急性期」よりも「回復期」や「慢性期」の病床のニーズが増える。国は15年に、病院や病棟を効率的に役割分担する「地域医療構想」をつくるよう都道府県に指示。病院や病床の削減につながることには反対が根強く、具体的な再編・削減は進んでいない。

 財務省から医療費を抑えるよう求められていることもあって、厚労省は昨年9月に「再編・統合の議論が必要」とした424病院の実名リストを公表した。公立・公的病院の3割にあたり、救急医療や感染症対策の拠点になっているところも多数含まれていた。

 これには名指しされた病院関係者らが、「地域事情が反映されていない」などと猛反発。厚労省は自治体や病院関係者との意見交換会を開き、「議論のたたき台であり統廃合を機械的に決めるものではない」などと釈明に追われた。

 厚労省は病院側の意見も踏まえ、1月に修正したリストをまとめた。手術実績などのデータを精査したことで、7病院はリストから外れたが、逆に追加されたところもあり、対象病院は約440まで増えたという。

著者プロフィールを見る
池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

池田正史の記事一覧はこちら
次のページ