地下茎をすり下ろしたわさび(イメージ写真)
地下茎をすり下ろしたわさび(イメージ写真)
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 一般的なにぎり寿司は、シャリの上にネタが乗っているだけのとてもシンプルな料理です。そしてシンプルさゆえに、ネタとシャリの素材の優劣が味に直結する、ごまかしがきかない料理とも言えます。

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 そのお寿司において、主役である素材を引き立てる名バイプレーヤーとでも言うべき存在が「わさび」ではないでしょうか。あの鼻にツーンと抜ける、なんとも言えない独特の辛さと香りは、お寿司には欠くことのできない要素ですよね。

 このツーンと鼻に抜ける辛さは「アリルイソチオシアネート(アリルカラシ油)」という成分によるものです。揮発性のこの成分は、わさびをおろして酸素に触れた際に生み出されるので、わさびをより細かくすり下ろして、空気に触れる部分が多い方がより強く感じられます。鮫皮などのキメの細かいおろし器でおろした方が辛みが増すのはこうした理由によるものです。

 和食に欠かせないもうひとつの代表的な薬味としてカラシがありますが、実はカラシの辛み成分も同じものなんです。どちらも原料はアブラナ科の植物で、わさびは根と茎の間にある地下茎をすりおろしたもので、からしは種子を粉状にして、水などで練ることによって作られています。

 唯一の違いは、わさびにはグリーンノートという独特の風味の香り成分があること。わさびとカラシの味の違いは、この香り成分によるんです。ところが、このグリーンノートの香りは、わさびをおろして空気中に放置しておくと徐々に薄れていきます。つまり、時間が経てばたつほど、わさびとカラシの辛みの判別がつきにくくなってしまうんです。

 興味がある方は、空気中にしばらく放置したわさびとカラシを、目隠しをした友人に食べさせてみてください。違いを当てられる人はほとんどいないと思います。(分量には気をつけてくださいね)

 最近の回転寿司では、レーンに回っているお寿司はすべてわさび抜きになっているお店が増えていますが、時間がたってわさびの風味が変化してしまうのを防ぐことも理由のひとつです。

 実はこの仕組みを初めて導入したのは、くら寿司なんです。レーンからお寿司を取って、食べる直前に好みに応じてわさびをつけて食べていただくことで、わさび特有の香りと辛さとともにお寿司を楽しんでいただけるよう、2008年から導入しました。

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ネタによってわさびの辛さが変わる?