事務局業務を担う、フードジャーナリストの佐々木ひろこさん(49)は、持続可能な海洋資源のあり方を考える若い世代の料理人ネットワーク一般社団法人Chefs for the Blue(シェフズ・フォー・ザ・ブルー)の代表だ。石田さんが目にしたSNSの投稿の主は、佐々木さんが率いる団体の中心メンバー。普段から社会問題に向き合ってきた彼らの行動は早かったと語る。
「料理で人を幸せにしたいという思いが彼らのDNAには染み付いています。もちろん、自分たちも休業に追い込まれ大変なのですが、私たちの社会を守るために、感染というリスクを背負って治療に専念している医療関係者の力になりたい。その思いが休業中の彼らをまた厨房に立たせたのだと思います」
4月13日、最初の100食が届けられた。ウェブサイトには、配達を希望する問い合わせが相次いだ。いずれも医療機関で働く関係者からだった。
なぜ、問い合わせが殺到したのか。東京都内の拠点病院で医師として働く男性(38)は、3月中旬にあのダイヤモンド・プリンセス号からの陽性患者を受け入れた日から、家族のいる自宅に帰ることができたのは、わずか2日だと語る。
「医師も看護師も、残業時間が100時間を超えています。仕事が終わるのは深夜。公共交通機関は動いていません。タクシーという選択肢もあるのですが、そもそも病院の車寄せに、コロナ以前は待機していたタクシーの姿が見当たらないのです。結局、今は病院が借り上げた近くのビジネスホテルを生活の拠点にしていますが、新規の患者が運び込まれるなどすれば、すぐに呼び戻されてしまいます」
病院内は院内感染を防ぐための「ゾーニング」が徹底されている。「レッドゾーン」はウイルスに汚染されている場所。「グリーンゾーン」はウイルスに汚染されていない清潔で安全な場所。「イエローゾーン」は汚染区域と安全区域の緩衝区域。レッドゾーンからグリーンゾーンに移動する際は、その都度、イエローゾーンで防護服と手袋を脱ぎ、防疫を徹底させる。問題は防護服などの備品には在庫に限りがあるということだ。