園児一人当たり月2000円という金額では、それらの物品を全て購入することは不可能だ。内閣府は公定価格のなかの給食材料費と保育材料費を合計した「一般生活費」の金額を毎年、通知で明示している。「幼児教育・保育の無償化」によって国は給食材料費を7500円と示していることから、2020年度の保育材料費は、3歳児未満児が2978円、3歳児以上児が1809円となる。
単純平均すれば園児一人当たり月2393円を保育材料費にかけることができるのだが、前述のようにCさんの保育園では、「月2000円でその他の費用まで賄え」と指示されるというのだ。保健衛生費やミルク代は別途、支給されているため、子どもに対する費用までもがコストカットの対象にされていることが分かる。
記者会見の直前、介護・保育ユニオンが内閣府に対し、このように保育士の低賃金や子どもの処遇が守られない背景には「委託費の弾力運用」があるとして、委託費の使途に制限をかけるなど制度の見直しを求める要望書を提出した。
委託費の弾力運用が原因となって人件費比率が低下する実態については、筆者はかねてより問題を指摘しており、AERAdot.でも「保育士の”給与”が低い21保育園を実名公表 全国平均以下の年収275万・・・派遣大手の施設も」(2018年11月19日)などの記事を執筆してきた。
ユニオンが内閣府に現状を訴えると、内閣府の担当者は真剣に聞き入りながら、「保育士の処遇改善は、もう少し何かの手当をする必要性を感じている。委託費の弾力運用の制度を変更すると影響が大きくなるため慎重にならざるを得ず、現段階では制度変更という議論には至っていない。ただ、世論が大きくなれば見直しのきっかけになる可能性はある」と言及した。そして、委託費の弾力運用は一義的には自治体が判断することのため、適正性について疑義が生じれば、市区町村や都道府県が自治体の判断として弾力運用を停止することができることを示唆した。それに対してユニオンは、「弾力運用の停止について自治体が判断できることを国として周知徹底してほしい」と要望した。
この点、筆者もこれまで再三にわたって内閣府に尋ねており、2019年の夏頃からは、通知より厳しいルールで自治体が独自に運用できるのではないかと問い合わせていたが、「規制を厳しくしたい自治体なんてないのでないか」と、なかなか明確な回答を得られずにいた。だが、最終的に得た答えは、「補助金適正化法によって、通知で示された使途範囲は守らなければならないのだが、補助金適正化法は補助金(この場合は委託費)の使途を制限しているもので、使途の範囲内でより狭く使う分には何の問題もない」だった。つまり、自治体は自らの判断によって、厳しい運用を行えるのだ。