この問題が発覚し、4月21日に筆者が第一報を打つと全国の保育士が声をあげ、介護・保育ユニオンにも相談が急増した。追って他の媒体も報じ、国会でも取り上げられたことで、6月17日に国から「新型コロナウイルス感染症により保育所等が臨時休園等を行う場合の公定価格等の取扱いについて」という通知が出るに至った。
同通知は、コロナの影響があったとしても運営費を減らさず通常どおり支給しているとして、職員の給与も通常どおり支払うよう明記された。そして、保育園が収入補償される場合は、労働基準法の休業補償6割に止まることなく通常どおり、”満額”補償するよう事業者に求めた。しかし、通知が出た後にもユニオンには休業補償の不払いの相談が寄せられている。
4~6月の間、介護・保育ユニオンには318件の相談があり、うち242件は休業補償についてだった。そのうち56.1%が休業補償を全く支払われておらず、補償について説明を受けていないものの合わせると、67.8%に上った。支給額が労働基準法上の6割以下が92.3%、支給額が全額でなかったのは実に97.9%に及んだ。
介護・保育ユニオンの共同代表である三浦かおりさんは「国の通知では、今までの不払い分も請求できることが示された。諦めないで相談してほしい。今後も、休業補償されなかった退職者についての交渉も行っていく」と話した。そして冒頭のAさんは、「給与が低いことで保育士が辞めていく。保育の現場はいつ想定外のことが起こるか分からない。経験のある保育士が必要だ。離職を止めるためにも、委託費の弾力運用をやめてほしい」と語った。
2000年に株式会社が参入して委託費の流用が認められても業界関係者は「もともと低い保育士給与からこれ以上、事業者も搾取できないだろう」と予想したが、抑制されているのは人件費だけではない。会見では、30代のBさん(仮名、女性)と50代のCさん(仮名、女性)が、子どもの玩具を買う事業費まで流用されている実態について、口を開いた。
Bさんは、株式会社の保育園で働いていた時に「園児の玩具を買う費用が公費で出ているはずなのに、買ってはもらえず手作りしろと言われた」と話した。帰宅後は深夜まで玩具作りに励んだが、それでも足りず、保育士が自腹を切って購入していたという。
急拡大する保育園で働くCさんは、「園児一人当たり月に2000円しか予算がつけられなかった」と、明かした。その予算で、ティッシュやトイレットペーパー、ペーパータオル、洗剤などの保健衛生用品を賄い、0歳児のミルク、アレルギー用のミルクやおやつのほか、絵本、折り紙、画用紙や絵の具などの保育材料、クリスマスやハロウィン、入園式、卒園式の行事費まで購入するよう経営者から求められていたという。