ネオンがまぶしく感じられる頃、勤め先の飲食店へと向かう女性が増え始める=2018年9月、沖縄県那覇市 (c)朝日新聞社
ネオンがまぶしく感じられる頃、勤め先の飲食店へと向かう女性が増え始める=2018年9月、沖縄県那覇市 (c)朝日新聞社
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『夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま』琉球新報取材班※楽天ブックスで見る
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 不登校、深夜徘徊、窃盗、大麻、売買春、妊娠……さまざまな困難を抱える少年・少女を取材した『夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま』(琉球新報取材班、朝日新聞出版)。そこには、“青い海と空”といったリゾートのイメージの陰に隠れた、もう一つの現実が描かれている。居場所をなくした少年少女の取材を続けてきた琉球新報・新垣梨沙記者が、その一端を明かす。

*  *  *

 2017年12月23日。2人組の13歳の女の子と会ったのは、夜のファミレスだった。1人は年の離れた妹を連れていた。学校に行けない子どもたちの話を聞いてサポートする支援者も含め、5人で遅めの夕食を取り、2人から話を聞く。女の子たちは長く不登校で、1人はここ何日か姉妹の自宅に寝泊まりしていた。姉妹の母親はキャバクラで働いていて朝まで不在だった。

 女の子たちに2度目の取材の約束を取り付け、支援者と一緒に、3人を姉妹の自宅がある郊外の集合住宅に送った。姉、その友人、途中で眠ってしまった妹を抱っこした支援者の順に、上階に向かって階段を上る。私は4人と少し距離を置いて後をついていった。

 4人が入っていった一室の前に立つ。半開きのドアには、引きちぎられたような金属製のドアチェーンが無造作にぶらさがっていた。

 ドアの隙間から部屋の中に目をやる。と、床には網状のフード部分のへこんだ扇風機が転がっていた。ドアチェーンも扇風機も、姉妹の母親の彼氏が暴れて壊したものだった。ファミレスで姉が話した通りの光景が広がっていた。

 どれほど暴れればドアチェーンを壊すことができるのだろう。そんな男は女性や子どもに手を上げる時だって手加減などしないはずだ。突っ立ったままぼんやりと考えた。

「この現実をどうする? 新聞記者はどうやったってみんなエリートだ。あなたたち記者は、子どもたちの置かれた状況を見ていない」

 沖縄の風俗業界で働く少女たちや、若年で出産した女性たちの聞き取り調査を行い、ケアに心を砕く研究者から突きつけられた言葉を思い起こした。この取材も、その言葉に押されるようにして始めたものだった。だが、暴力の跡を目の当たりにして、私はすでにおじけづいていた。

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ありとあらゆる言い訳の言葉を考えたが…