動物病院での勤務経験が豊富で、犬のしつけ家として活躍する後藤三枝子さんはこう話す。

「相談に来る飼い主さんには『普段のままで大丈夫』と答えています。それでも心配なら、いま、ご自分が気を付けている程度のことと同じぐらいの注意を払ってあげてください」

 震災後の食欲低下や下痢症状を、「放射能の影響では」と疑う飼い主もいるが、「ストレスや不安の表れである可能性が高い」(後藤さん)という。

 しかも、人間と同じように、症状や程度には個体差があるようだ。

 2匹のを飼う都内の40代女性が言う。

「震災後、一匹はケロッとしていましたが、もう一匹は夜鳴きや、いろんな場所での排泄行為が増えてきたので、ときどき動物用の安定剤を飲ませています」

 不安で体調を崩すペットへの接し方について、東京都港区にある赤坂動物病院の柴内裕子院長はこう話す。

「飼い主の戸惑いを見て、動物も戸惑っていることが多い。余震後に、『大変! 怖いね』と言って急に強く抱きしめると恐怖感をあおるので、飼い主さん自身が平常心でいることが重要。できる限り穏やかな態度で接してください」

 猛暑に節電のダブルパンチで、今後とくに心配されるのが、熱中症だ。

「(飼い犬の)ルナちゃんの熱中症が心配なので、夏は旦那を置いて2人で避暑地に避難する予定です」(東京都世田谷区・50代女性)

 という"強者"もいるが、そんな優雅な飼い主ばかりではない。

 では、どんな工夫をすればいいのだろう。前出の柴内院長はこう提案する。

「大理石のような石の板を置いたり、アイスパックをタオルで包んでおいたりするのも一つの方法です。食欲不振になったら、水分の多いものを与えることも大事。とくに気をつけたいのは、6月末から7月にかけてです。この時期は、人間と同じでまだ暑さに慣れていないため、急激な気温上昇には注意が必要です。幼い犬猫、高齢、病気の犬猫にはとくに配慮してください」

 大げさに、ではなく冷静な対処で、"わが子"の健康を守りましょう。

◆野生の鳥や動物は追跡調査が必要◆

 福島県は面積の7割を森林が覆う。コンクリートやアスファルトで覆われた市街地と違い、森林を汚染した放射性物質は生態系の循環に組み込まれ、生物の間を行き来する。

 なかには渡り鳥のように、長距離を移動する生物もいる。鳥インフルエンザでは、野鳥や渡り鳥の糞などを介して感染が広がった可能性が指摘されている。

 ウイルスと放射性物質は違うので、単純に比較はできないが、高濃度に汚染された野生動物が街や人里を歩き回れば、汚染物質をまき散らす恐れもあるのではないか。

 だが、福島県鳥獣保護センター所長で獣医師の溝口俊夫さんはこう話す。

「まだ実態がつかめていないので、渡り鳥が汚染をまき散らす可能性があるかどうかなんて、いまの段階では言えません。ただ、私たちも野生動物の被曝状況や、人間への影響を調べる必要があると考えています。そうしなければ、野生動物を治療する自分たちの安全も確保できませんからね」

 同センターでは、年に数百匹の野生動物を対象に、筋肉や内臓などの汚染状態を調べ、10年程度にわたって長期的に追跡していく方針だという。

◆錦鯉から猛魚まで 都会でポイ捨てされた1万2千の命◆

 家族のように心配されるペットがいる一方で、都会では人知れず見捨てられた命もある。

 多摩川の環境保護を進めてきた川崎河川漁協(川崎市)の山崎充哲さんは、飼いきれなくなった観賞魚や両生類などの放流を防ごうと、2005年から「おさかなポスト」と名付けた生け簀を設置している。多摩川には近年、外来種が繁殖し、生態系の破壊が危惧されていたからだ。

 震災後、この"避難所"がパンク寸前になっている。

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