神奈川県鎌倉市に住む47歳の主婦、薫さんは5月に、愛犬ラブラドルレトリバーのラブちゃん(オス、6歳)を連れて海へ遊びに行った。ラブちゃんが下痢と嘔吐(おうと)に見舞われたのは、その夜のことだ。
かかりつけの獣医師に診てもらうと、
「ただの遊びすぎで、疲れからきたものでしょう」
と言われたが、「放射能の影響では」という知人のひと言で不安がかき立てられた。
もともと放射能によるペットへの影響を心配していた薫さんは、震災後はペットフードに混ぜていた野菜をすべて西日本産に変え、昆布が放射能除去にいいと聞くと、野菜を煮るときにとろろ昆布を入れて与えていた。
「私たちよりも体が小さいので、少しでも放射能の影響を受けないように、できる限りのことをしています。本当は、一緒に日本を脱出したいぐらいなんです」
3月11日の東日本大震災後、環境省にはペットに関する意見や問い合わせの電話やメールが増えている。
多くは、
「福島第一原発から20キロ圏内のペットを早く助けてあげて」
「民間ボランティアをもっと投入してほしい」
と被災地のペットのことを心配する内容だが、
「ペットフードに放射能の出荷基準はないのか」
という飼い主の切実な不安の声もあるという。
◆散歩は雨どいや草むらを避けて◆
この問いに対する答えは、
「ペットのエサはペットフード安全法で原産国名や原材料などの表示が義務づけられていますが、放射能に関する基準はなく、今後も作る予定はありません」(環境省動物愛護管理室)
というものだ。残念ながら、基準がないと、愛犬家や愛猫家の不安は解消しないだろう。
自治体や市民団体の調査が進むにつれて、福島県内に限らず、首都圏でも、千葉県柏市や我孫子市など各地で、局所的に放射線量が高い「ホットスポット」ができていることが確認されてきている。
国際放射線防護委員会(ICRP)は、一般人の年間被曝(ひばく)限度を「1ミリシーベルト以下」と定めているが、千葉県内では毎時0・6マイクロシーベルト、年間換算で5・26ミリシーベルトを超える地域も見つかっている。
このため、埼玉県川口市や千葉県野田市など、独自の基準を設ける自治体も増えてきた。川口市では、年間1ミリシーベルトに、自然界に元から存在する放射線量を加えた年間1・64ミリシーベルトを安全の基準とし、毎時0・31マイクロシーベルトを超えた保育所や小中学校では、屋外での授業を3時間以内にすると決めた。
となると、やはりペットへの影響も気になってくる。放射線量が高い地域で暮らすペットへの健康被害はないのだろうか。