ところが、その基準額が47万円に上がるとどうなるか。
「同じケースで考えると、1カ月の収入が37万円以下なら年金はカットされません。全額カットになるのは57万円以上の人です」(先の三宅氏)
月収37万円は、年収に換算すると約440万円。役員や経営幹部であればともかく、60歳定年で定年後は再雇用されるケースが多いビジネスパーソンにとって、この金額に届く人はそうはいない。
厚生労働省の資料によると、現在、60代前半で働きながら年金を受給している人は約120万人。このうち半数弱は年金がカットされない範囲内の給料で働いている。残りの半数強はカットされているものの、今回の引き上げでカットされずに年金をフル受給できる人が増える。
もっとも現在、厚生年金は「原則65歳受給開始」に向けて受給開始年齢が段階的に引き上げられており、男性は2025年度、女性は2030年度が終わると60代前半の年金(特別支給の老齢厚生年金)はなくなる。
「それでも基準額が変わる22年4月に64歳以下の人は、この制度改正の恩恵を受けることができます。一部の人になってしまいますが、男性は1957年4月2日~61年4月1日生まれの人、女性は57年4月2日~66年4月1日生まれの会社勤めの人がこの制度を使えます」(同)
1カ月~最長3年間の期間限定だが、この人たちは、それ以前の世代と違って年金をカットされない人が多くなる。年金を丸々もらえるという意味からすると、いわば「丸得世代」だ。年金は偶数月の15日に直前の2カ月分が支給されるので、丸得の年金が支給されるのは22年6月からになる。
対象年代と得になる期間をまとめておいたので、自分が当てはまるかどうか、当てはまる場合はどれぐらいの期間“得”をするのかを確認してほしい。
カットされなくなった年金分は所得が増えるので、それに伴って税金が増える。また、60歳以降、給料が減った人に雇用保険から支給される「高年齢雇用継続基本給付金」を受けている人は、それとの調整で年金が一部カットされるので注意しよう。(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2020年9月4日号より抜粋