年金改正法が成立し、これから各種改正が次々と実施される。なかでも大きく変わるのが、60代前半で働きながら年金をもらう場合だ。年金カットが当たり前だった従来と違い、カットされない人が急増する。ただし、得する人は世代が限定されるので、注意が必要だ。
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今回の年金改正で注目されたのは、年金受給を遅らせる「繰り下げ」制度の拡大だった。年金は65歳からが基本。現在は70歳まで5年遅らせることができるが、それが改正で75歳まで拡大された。人生100年時代で「長い老後」が普通になり、年金を遅くもらう人を増やして年金財政を楽にするのがねらいだ。
年金改正というと、繰り下げが“いの一番”に出てきていたが、その陰になる形でビジネスパーソンにとって重要な改正があった。会社員などを対象とした厚生年金の「在職老齢年金」の基準額が変更されたのだ。
在職老齢年金とは、会社で働きながら年金をもらう人の給料と年金を調整する制度をさす。簡単に言うと、一定額以上の給料をもらうと年金はカットされていく。
年金実務に詳しい社会保険労務士の三宅明彦氏が言う。
「今回の改正で、60代前半の数字が大きく変わりました。年金カットを計算する際の基準額が今は『月28万円』なのですが、これが約1年半後の2022年4月からは『47万円』に大幅に引き上げられるのです」
決まり方も、“ひょうたんから駒”のようなものだった。
繰り下げ拡大との絡みで65歳以降の在職高齢者の取り扱いに議論が集中。国はまず、65歳以降の基準額47万円を廃止または62万円に引き上げるプランを打ち出した。しかし、基準額が高いほど高所得者に有利になるため「金持ち優遇」の批判が巻き起こり、すったもんだの末、現行どおりの47万円に落ち着いた。60代前半については焦点が当たらないまま、65歳以上に合わせる形で引き上げられることになった。
経緯はともかく、60代前半の基準額が19万円も増えることの影響は大きい。
毎月の厚生年金額である「基本年金月額」と、その月の給料に直近1年間の賞与を月割りした金額を足した「総報酬月額相当額」の合計が基準額を超えれば、超えた分の半分が年金からカットされる。これが在職老齢年金の基本的な仕組みだ。
これまでの基準額は28万円だから、かりに60代前半の年金額が10万円の人がいたとすると、1カ月の収入が18万円より高くなると年金カットが始まる。そして収入が38万円以上になると、年金10万円は全額がカットされる。