■相談員がバーンアウト

 同ファンドは都内に個室シェルターなど58部屋を用意し住宅支援に活用しているが、常に満室状態。稲葉さんは、民間の力だけでは限界があり公的支援に期待するが、住居確保給付金制度には課題があり、「現状に合っていない」と指摘する。

「最大の問題は、支給期間が最大9カ月という点です。収入が回復しないまま支給期間を終えた方が家賃の支払いに窮する事態が、年内にも起こり得ます」

 まさに先の女性のようなケースだ。稲葉さんは、「支給期間は最低でも1年にするべき」と言う。

 さらに、「支給要件」の課題も挙げる。この制度には支給要件として収入が「一定の基準額以下」という条件があり、単身だと月8万4千円以下でなければ全額支給とならない。生活保護を基準に設けられたものだが、中所得者層も会社の倒産や解雇などで住まいを失いつつある中、基準額を高齢者や障害者等の公営住宅への入居基準の21万4千円などを参考に、大幅に引き上げる必要があると提言する。

 あと一つ、相談員の増員も重要と語る。

「住居確保給付金の申請件数が大幅に増えた結果、相談員がバーンアウト(燃えつき)しているという状況が明らかになっています。そもそも相談員も非正規の方が多く、増員とあわせ待遇改善も必要です」

 稲葉さんは、こうした制度の改善を求める一方、「現物給付」の必要性を説く。

「コロナ禍における被害は『コロナ災害』と呼んでいいと思います。東日本大震災以降、災害救助法に基づき行政が民間の空き家を借り上げ、住まいを失った方に提供する『みなし仮設』方式の住宅支援が実施されています。同じようにコロナで住まいを失った方たちにも、公営住宅などを無償で提供するべきです」

 住まいを失うことは、命の危機にも直結する。例えば、全国に空き家は約849万戸、都内だけで約81万戸ある。これを活用できないか。対策は待ったなしだ。(編集部・野村昌二)

AERA 2020年10月19日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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