「緊急事態宣言の前後で採用を中断する企業が出てきて、学生さんの多くが不安や危機感を抱いています。就活の動きだしが例年より早い傾向にあります。これまで、夏のインターンシップに参加する学生は情報感度の高い早期組でした。今年は前倒しでとりあえずさまざまな会社にエントリーしておこうという傾向が見られます。学生さんの焦りが背景にあるのではないでしょうか」

 やはり説明会や面接をオンライン化したことで、地方学生の比率が増加した。

「各地で説明会を開けなくなり、当初は応募者が減ると懸念していました。でも、実際は逆で、オンラインでも面接を受けられるので、地方の学生さんが非常に増えました。全体として、当社で活躍しそうなマインドを持った優秀な学生さんが、例年以上に集まっている印象です。しっかり見極めて採用していきます」(石田さん)

■夏時点で内々定ゼロ

 このような採用面での「特需」を大学側はどう見ているのか。早稲田大学キャリアセンターの塩月恭課長は、こう説明する。

「中長期計画に基づいて採用している大企業は多いので、採用条件が大きく変わった業界は限定的かもしれません。でも、私が聞く限り、初任給アップや待遇改善をするのは、需要が期待される介護業界くらい。夏の学内セミナーの参加学生をみても、コロナ禍の影響で志望業界の変更を余儀なくされたことによる内々定ゼロが多くいました。自分の適性に合った企業や仕事を研究することが例年より一層求められていると思います」

 就職コンサルタントの坂本直文さんも、ビフォー・コロナのような採用活動はできなくなると指摘する。

「企業イメージだけで選ぶ時代は終わり、これからは業界全体ではなく企業ごとの業績をシビアに見ていくことになります」

 厳しい就活戦線といわれるなかで、理系学生を中心に特需のような現象が起きているのも事実だ。これまで以上に学生の冷静な目線が求められる。(ライター・井上有紀子、編集部・福井しほ)

AERA 2020年10月26日号より抜粋

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福井しほ

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大阪生まれ、大阪育ち。

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