※写真はイメージです (GettyImages)
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保険を整備する主な自治体 (週刊朝日2020年11月13日号より)
保険を整備する主な自治体 (週刊朝日2020年11月13日号より)

 認知症の人がトラブルや事故を起こしても、本人や家族を支える街づくりが全国的に進んでいる。当事者の意思を尊重した条例を作ったり、民間保険を使った事故救済制度を導入したりする自治体を編集部が独自に調査した。

【表】保険を整備する主な自治体のリストはこちら

「転んで手を骨折して、できることが制限されてから、認知症が一気に進みました」

 こう語るのは東京都世田谷区に住む鈴木利幸さん(73)。6年ほど前に亡くなった母親が認知症だった。

 母親はもともと食事に行ったり、おしゃれをしたりするのが好きだった。だから、認知症になってからは一緒に外食や旅行に出かけて楽しませようと努めてきた。

「最後のほうは自分の意思もなくなってしまったようなところもありましたが、やれることはやったほうがいい。生きる執念や欲があると、元気になると思います」

 こうした認知症の人や家族を街全体で支えるため、世田谷区は「認知症とともに生きる希望条例」を制定し、10月に施行した。条例の検討会には認知症の人本人もかかわった。区によると、認知症の当事者や家族の思いが盛り込まれた条例は東日本で初めてだという。今後、区民には認知症になった時の備えとして、生活についての希望や意思を記す「私の希望ファイル」の活用を求める。

 そのほか、区内各地に認知症相談窓口を設置したり、「認知症サポーター養成講座」を実施したりしている。区の担当者は狙いを説明する。

「認知症になってもできることはあります。『何もできなくなる』という意識を少しずつ変えていく。認知症のバリアフリーを実現していきたい」

 西日本では、先行する自治体がある。和歌山県御坊市は「認知症の人とともに築く総活躍のまち条例」を制定し、2019年4月に施行。認知症の人の視点に立った取り組みを実践している。

 例えば、御坊郵便局の建物には1.8メートル四方の大きな〒が描かれている。目の前に郵便局があるにもかかわらず道に迷った認知症の人がいたためで、よく見えるようにした。銭湯では「シャンプーとボディーソープの違いがわからない」という声を受け、ボトルに「あたま」「からだ」とマジックで書くようにした。

 条例ではないが、福岡県大牟田市は05年に「認知症の人とともに暮らすまちづくり宣言」を出した。商店街では「認知症サポーターのいる商店街マップ」を作成。商店街の人らが「認知症サポーター養成講座」を受講し、認知症の人が買い物で道に迷ったり、支払いで戸惑っていたりすれば、手助けする。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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