背景には愛知県大府市で07年に起きた鉄道事故がある。認知症の男性が線路に降り、電車にはねられて亡くなった。JR東海は家族に720万円の損害賠償を求めた。16年に最高裁は家族の責任を認めない判決を出したが、事情によっては責任を問われる余地を残したため、認知症の関係者の間で不安が高まっていた。

 救済制度を設けた自治体のほとんどが保険料を肩代わりしており、認知症の人の家族に負担はない。損害賠償の補償だけではなく、認知症の人本人の傷害保険や被害者に対する見舞い費用補償などを用意しているところもある。自分が住む自治体がどういった制度を整えているのか、一度確認してみよう。

 自分の街にこうした制度がなくても、保険会社を利用すれば同様のサービスを受けられる。保険選びサイト「保険市場」を運営するアドバンスクリエイトの担当者は指摘する。

「認知症に関する補償の付いた保険の問い合わせが増えています」

 これまで監督義務のある家族に損害賠償責任が及んだ場合、補償の対象にはなっていなかったが、家族も対象にする改定が進んでいる。また、電車を運行不能にした際の損害も補償の対象とする個人賠償責任特約も増えている。

 損保ジャパンは昨年から自動車保険を見直し、監督責任のある家族らも補償の対象にした。保険料の割り増しはない。三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損保は17年から火災保険の個人賠償特約(年1930円、保険金限度額3億円)を電車を止めた場合の損害賠償も補償するよう見直した。

 認知症専門の保険も出ている。東京海上日動火災保険は18年から「認知症あんしんプラン」を販売。1億円を上限にした個人賠償責任補償や被害者死亡時の見舞い費用補償、認知症の人本人のケガの補償などをカバーする。保険料は月額1300円だ。

 このような保険を選ぶ際の注意点は何か。アドバンスクリエイトの担当者はこう話す。

「保険会社によっては改定が反映されている商品と反映されていない商品の両方があるため注意が必要。火災保険など長期契約に付く特約は改定が反映されていないケースが多い。しっかりと補償されるのか、保険会社や代理店に確認しておきましょう」

(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2020年11月13日号

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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